「dolphin」といっても「イルカ」ではなく魚の「シイラ」
7月は翻訳とトライアルが続いているので、気になるニュースを追跡する時間がなかった。
作業中の案件が半分くらい終わって余裕ができたので、誤訳ニュースと思われる記事をメモしておこう。
捕鯨関係のサイトや掲示板などで話題となっている、7月18日付けの産経新聞の記事である。(すべてリンク切れ)
http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/090718/sty0907182346004-n1.htm
http://www.business-i.jp/news/flash-page/news/200907180122a.nwc
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090719-00000510-san-soci
【【RE:社会部】鯨文化衰退に違和感 2009/7/18
「静岡では伝統的にイルカを食べるんですよ」。先日、こんな話を捕鯨関係者 から聞きました。イルカは水族館に行けば、いろいろな芸を披露し、ダイビングで出会えば人に愛嬌(あいきょう)を振りまく…。どうしても 食べ物として想像できない。そんなことを考えていると、以前、中国人から聞いた話を思いだしました。
その中国人は来日した当初、 人に連れられて散歩している犬を見ると、「おいしそう」と思っていたそうです。日本人には到底理解できませんが、中国では当たり前のように犬を食 べる。国によって食文化が違う。そう痛感した記憶があることを関係者に話すと「捕鯨反対を唱える国も矛盾があるんですよ」という答えが返ってきました。
調査捕鯨に強く反対するオーストラリアでは、同じほ乳類のイルカを食べる。 しかも「どれだけ捕獲されているのかを政府は把握していないほどだ」と関係者は明かします。しかし、こと捕鯨になると、厳しい態度で臨んでくるといいます。
日本の調査捕鯨数は資源量の1%にもなりません。流通量に乏しく、最近では解凍技術が分からない料理人が増えるなど、伝統の食文化が廃れつつあるそうです。
鯨だけが外国の圧力によって食文化から消される現状に、どうしても違和感を覚えずにはいられません。(充)】
「オーストラリアではイルカを食べる」 と話した 「関係者」 とは誰なのだろうか。
産経新聞が取材したことと記事の内容から、捕鯨関係者と思われるが、元々の情報はどこから来たのか。
確かに過去のオーストラリアでは、ヨーロッパからの移民が、食料不足のときにクジラを食べた記録がある。
また、オーストラリアの博物館のサイトでは、先住民がイルカやクジラを食べていたと書いてある。
http://australianmuseum.net.au/Food-from-the-Sea-mammals-birds-turtles
しかし、現在のオーストラリアで「イルカを食べている」 という話は、先住民を含めて聞いたことがない。
(IWCの先住民生存捕鯨の対象とならない捕獲について、調査を継続中である。)
オーストラリア近くの南太平洋諸島では、「イルカ鍋」 という伝統料理もあるが、オーストラリア領ではない地域なのに、このイルカ鍋を誤解したとも考えられない。
ソロモン諸島のイルカ漁の話をオーストラリアのメディアが流した ことがあるが、これをオーストラリア国内のニュースと勘違いしたのならば、不注意としか言いようがない。
http://www.abc.net.au/news/video/2009/03/23/2523270.htm
あるいは、ジュゴンのことをイルカと勘違いして話しているのかもしれない。
国立民族学博物館調査報告には、「オーストラリア・トレス海峡諸島民のジュゴン猟を事例として」 という論文もあるが、捕鯨関係者は、ジュゴンをイルカの一種と勘違いしているのだろうか。
意図的にウソを流布させているとは思いたくないが、「クジラ食害論」 の前例があるので信用できない。
元の情報が英語だとすると、他の人が指摘しているように、dolphin を誤訳した可能性もある。
dolphin を英和辞典で調べると、1番目の語義は 「イルカ」 だが、2番目に魚の 「シイラ」 とある。
魚のシイラであることを明示するには、 dolphin fish または一語で dolphinfish とするが、食べ物としてシイラしか思い浮かばない国では、dolphin だけでシイラを意味すると思われる。
また、dolphin fish と二語で書いてあっても、dolphin だけ見て 「イルカだ」 と早とちりしたのかも。
オーストラリアの釣りの情報サイトで、シイラを釣り上げた記事では dolphin fish である。
http://www.spooled.com.au/Article:571
dolphin の用例は、ここではアメリカ・フロリダ州のレストランのメニューにしておこう。
http://bassprocorp.com/BPS/Userfiles/7/file/Florida_Keys_Menu.pdf
いくつか dolphin を使った料理があるが、このレストランを経営する会社の通販サイトを見ると、ここでの dolphin は魚のシイラであることは、商品説明の写真からも明白である。
http://www.ifcstonecrab.com/Store/15/Products/Fresh-Fish.aspx
【Dolphin, also known as Mahi Mahi or Dorado, is a mild firm fish that can be used for anything; fried, grilled, baked or sauted.】
それにしても、最初に誤訳・誤解したのは 「日本の捕鯨関係者」 と思われるが、「オーストラリアでイルカを食べるのは変だな」 と感じないため、誤訳に気づかないのだろう。
最初は dolphin の意味を 「イルカ」 と選択しても、文意が理解できなければ辞書を引くべきだ。
水産関係の専門家といううぬぼれが、この ような基本的ミスを生んでいるのかもしれない。
それを聞いた記者も、専門家が言うなら本当だろうと、実際に確認することを怠っている。
私も翻訳中の案件で、どうも意味が通じない和訳となり、よく調べると勘違いに気づくことがあった。
他者のミスを、自分への戒めと考えておきたい。
(最終チェック・修正日 2009年08月18日)
「静岡では伝統的にイルカを食べるんですよ」。先日、こんな話を捕鯨関係者 から聞きました。イルカは水族館に行けば、いろいろな芸を披露し、ダイビングで出会えば人に愛嬌(あいきょう)を振りまく…。どうしても 食べ物として想像できない。そんなことを考えていると、以前、中国人から聞いた話を思いだしました。
その中国人は来日した当初、 人に連れられて散歩している犬を見ると、「おいしそう」と思っていたそうです。日本人には到底理解できませんが、中国では当たり前のように犬を食 べる。国によって食文化が違う。そう痛感した記憶があることを関係者に話すと「捕鯨反対を唱える国も矛盾があるんですよ」という答えが返ってきました。
調査捕鯨に強く反対するオーストラリアでは、同じほ乳類のイルカを食べる。 しかも「どれだけ捕獲されているのかを政府は把握していないほどだ」と関係者は明かします。しかし、こと捕鯨になると、厳しい態度で臨んでくるといいます。
日本の調査捕鯨数は資源量の1%にもなりません。流通量に乏しく、最近では解凍技術が分からない料理人が増えるなど、伝統の食文化が廃れつつあるそうです。
鯨だけが外国の圧力によって食文化から消される現状に、どうしても違和感を覚えずにはいられません。(充)】
「オーストラリアではイルカを食べる」 と話した 「関係者」 とは誰なのだろうか。
産経新聞が取材したことと記事の内容から、捕鯨関係者と思われるが、元々の情報はどこから来たのか。
確かに過去のオーストラリアでは、ヨーロッパからの移民が、食料不足のときにクジラを食べた記録がある。
また、オーストラリアの博物館のサイトでは、先住民がイルカやクジラを食べていたと書いてある。
http://australianmuseum.net.au/Food-from-the-Sea-mammals-birds-turtles
しかし、現在のオーストラリアで「イルカを食べている」 という話は、先住民を含めて聞いたことがない。
(IWCの先住民生存捕鯨の対象とならない捕獲について、調査を継続中である。)
オーストラリア近くの南太平洋諸島では、「イルカ鍋」 という伝統料理もあるが、オーストラリア領ではない地域なのに、このイルカ鍋を誤解したとも考えられない。
ソロモン諸島のイルカ漁の話をオーストラリアのメディアが流した ことがあるが、これをオーストラリア国内のニュースと勘違いしたのならば、不注意としか言いようがない。
http://www.abc.net.au/news/video/2009/03/23/2523270.htm
あるいは、ジュゴンのことをイルカと勘違いして話しているのかもしれない。
国立民族学博物館調査報告には、「オーストラリア・トレス海峡諸島民のジュゴン猟を事例として」 という論文もあるが、捕鯨関係者は、ジュゴンをイルカの一種と勘違いしているのだろうか。
意図的にウソを流布させているとは思いたくないが、「クジラ食害論」 の前例があるので信用できない。
元の情報が英語だとすると、他の人が指摘しているように、dolphin を誤訳した可能性もある。
dolphin を英和辞典で調べると、1番目の語義は 「イルカ」 だが、2番目に魚の 「シイラ」 とある。
魚のシイラであることを明示するには、 dolphin fish または一語で dolphinfish とするが、食べ物としてシイラしか思い浮かばない国では、dolphin だけでシイラを意味すると思われる。
また、dolphin fish と二語で書いてあっても、dolphin だけ見て 「イルカだ」 と早とちりしたのかも。
オーストラリアの釣りの情報サイトで、シイラを釣り上げた記事では dolphin fish である。
http://www.spooled.com.au/Article:571
dolphin の用例は、ここではアメリカ・フロリダ州のレストランのメニューにしておこう。
http://bassprocorp.com/BPS/Userfiles/7/file/Florida_Keys_Menu.pdf
いくつか dolphin を使った料理があるが、このレストランを経営する会社の通販サイトを見ると、ここでの dolphin は魚のシイラであることは、商品説明の写真からも明白である。
http://www.ifcstonecrab.com/Store/15/Products/Fresh-Fish.aspx
【Dolphin, also known as Mahi Mahi or Dorado, is a mild firm fish that can be used for anything; fried, grilled, baked or sauted.】
それにしても、最初に誤訳・誤解したのは 「日本の捕鯨関係者」 と思われるが、「オーストラリアでイルカを食べるのは変だな」 と感じないため、誤訳に気づかないのだろう。
最初は dolphin の意味を 「イルカ」 と選択しても、文意が理解できなければ辞書を引くべきだ。
水産関係の専門家といううぬぼれが、この ような基本的ミスを生んでいるのかもしれない。
それを聞いた記者も、専門家が言うなら本当だろうと、実際に確認することを怠っている。
私も翻訳中の案件で、どうも意味が通じない和訳となり、よく調べると勘違いに気づくことがあった。
他者のミスを、自分への戒めと考えておきたい。
(最終チェック・修正日 2009年08月18日)