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原文誤記を修正する能力を高めて機械翻訳に対抗しよう

機械翻訳(MT)とその後処理であるポストエディット(PE)を用いて、特許翻訳を行うようになってきた。
様々な問題点が指摘されているものの、特徴を理解してうまく利用すれば、業務の効率化が期待できそうだ。

MTがさらに発展して、人間翻訳者がPEをするようになっても、単なる後処理ではなく、原文誤記の指摘と修正提案の能力が同様に期待されることになるだろう。

MTでは元々、文章の意味を理解しないため、原文誤記という判断もできない。
単純なスペルミスだと、類似の単語を推測しているのか、正しいスペルの単語に修正した訳文出力になることもある。
ただ、存在しない単語の場合、原文ママで出力されたり、カタカナ表記になったり、無理やり作った訳文出力になることが多い。

私の勤務先では、登録フリーランス翻訳者にもPEを行ってもらい、さらに社内でチェックして、納品できる品質にしている。
自分でも反省しているが、MTのミスを見逃していることがあるので、別の人がPE結果をチェックすべきだ。

ということで、MTを導入してもチェックの手間は変わらないので、作業時間の短縮は10%~20%程度なのだ。

今回のバイオ系特許英和翻訳のチェックでも、PEを依頼したフリーランス翻訳者は、ほとんどの専門用語の調査はできていたが、不明点について原文誤記という判断ができていなかった。

その原文誤記とは、具体的には、遺伝子を導入するベクターの説明に出てきた min-circle だ。
結論から言えば、正しくは mini-circle で、日本語ではカタカナ表記のミニサークル

実は、私はこの専門用語を知らなかった。
有機化学の研究で博士号を持ち、ドイツ留学をしていても、バイオ系の情報をすべて把握しているわけではない。
それでもこれまでの翻訳の経験もあって、正しい訳語にたどり着くことができた。

MTの和訳出力結果では、最小円になっていた。
MTは文脈を理解しないので、「最小円」がバイオ系特許としては不適切な和訳であるとは判断しないし、無理やり和訳を作って取り繕ってしまうのだ。

PEを行った翻訳者は、「最小円はおかしい」と気付いたのだが、「調査したが訳も語義も見つからなかった」とコメントし、原文ママでmin-circleを和訳に入れていた。

定訳が存在しない新概念ならば、カタカナ表記にすることも考えるが、語義も不明では納品できないので再調査した。
また、誤記の場合でも、単純なスペルミスならば修正してよいとクライアントから言われているので、正しいスペルを確定する必要がある。

「min-circle」で検索しても、プラスミドやベクターに関係する文書はヒットしない。

そこで、原文誤記なのだろうと予想して、min を外してベクター プラスミド サークルで検索した。
すると、研究用試薬商社のサイトがヒットし、ミニサークル作製用製品 Minicircle DNA Systemの情報が得られた。
www.funakoshi.co.jp/contents/4900

確認すると、minicircle の説明が掲載されており、今回のバイオ系特許の内容に合致する。

さらに、科研費の研究成果報告書と原生動物学雑誌の論文で確認した。
kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-25660001/25660001seika.pdf(mini-circle、科研費報告書)
protistology.jp/journal/jjp43/02Kitada.pdf(minicircle、原生動物学雑誌)

そこで、クライアントへの翻訳メモには、原文誤記を指摘して、正しいスペルから和訳をミニサークルに修正した。

納期ギリギリまで努力したと思うが、調査しても不明というときには、原文誤記であると判断して、調査のやり方を工夫してほしい。

MTは原文誤記であっても無理やり和訳するし、不明点を解決しようと調査することもない。
だから人間翻訳者がPEをしなければ、納品できるようなレベルにはならないのだ。

そして、語学能力だけではなく、検索も含めた調査能力を高めることが、仕事を任せられる翻訳者となるために必要だ。
私も完璧ではないので、日々努力しようと思う。


私は英日/独日翻訳者として登録している。ドイツ語の案件に取り組んでいるときには、英日翻訳の案件が来ても同時にはできないので、代わりに外注のフリーランス翻訳者が和訳したものをチェックしている。このチェックでの経験について、具体的な特許を示すことはできないのだが、一部改変してメモしておきたい。そのフリーランス翻訳者は、ある化合物名について、「化学物質のデータベースなどで検索したが見つからなかった」とい...
検索しても見つかりませんでした ⇒ 原文誤記です

テーマ : SOHO・在宅ワーク
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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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