ジェンダーにまつわる表現について(英語教育2020年5月号)
多文化共生社会では職場でも学校でも、あらゆる場面で多様性への対応が重要である。
日本では内閣府に男女共同参画局を設けて、様々な取り組みを進めているが、2019年のジェンダーギャップ指数が世界で121位で、下から数えた方が早いという残念な現状である。
ここで海外の先進国に学ぼうという主張をするとき、「北欧では」とか、「ドイツでは」という例示をするためか、「出羽守」と揶揄されることも多い。
それでも、ダイバーシティ・インクルージョンという考え方を取り入れて、社会意識の変革を進める方が日本の将来のためになるならば、「出羽守」と冷やかされても主張を続けたい。
今回参考にしたのは、英語教育2020年5月号の連載記事「多文化共生時代に学ぶ英語 第2回」だ。
タイトルは、「ダイバーシティ・マネジメントの課題 -ジェンダーにまつわる表現を例に」。
ジェンダーの言語問題として、現代英語では、両方の性にかかわることがらを、一方の性を表す言葉で代表してはならないとしている。
化学関係の国際会議に参加したとき、プログラムには chairman ではなく chairperson と書いてあった。
また、everyone や everbody を受ける代名詞では he or she を使っていたが、最近は they が使われるようになった。
ただ、記事中にはなかったが、第三の性で they を使うようになったので、今後も工夫は続くだろう。
有名な言葉として、All men are created equal. が例示されている。
これも、男性を意識させる men ではなく、all men and women / all people / we / all of us が推奨されている。
英語の包括的な言い方として、排他的な言い方をしない、そして、平等ではない言い方をしない、が挙げられている。
排他的な言い方とは、例えば、Employees are welcome to bring their wives and children. では、男性従業員に宛てたとしか思われない。
また、同列ではない、平等ではない言い方とは、例えば、a female doctor など、わざわざ「女性」であることを書く表現だ。
日本語でも、最近は「きょうだい」と平仮名書きにして、男女両方を含むように工夫するようになった。
新約聖書でも、新しい聖書協会共同訳では、以前の「兄弟たち」という呼びかけを「きょうだいたち」に変えた。
ドイツ語聖書のように、「兄弟姉妹たち」にすることも可能だが、「きょうだいたち」の方がより平等な言い方だろう。
ところで、翻訳者は常日頃、外国の情報や文化に触れているのだから、ジェンダーの言語問題はクリアしているだろうか。
これまでの経験や先入観もあって、女性差別をしているつもりはなくても、「目に見えない侵害」をしているかもしれない。
私の反省も含めて、以下に例示したい。
ある特許翻訳のセミナーで高齢のベテラン講師が、「女性は電気や物理が苦手だから、特許の内容理解に苦労する人が多い」と発言した。
まあ確かに、大学の理系学部で男女比を見ると、生物系や薬学系で女性の割合が多くなる場合もあるが、圧倒的に男性が多い。
さらに、ノーベル賞受賞者を自然科学3賞で見ると、ほとんど男性研究者だ。
そのような現実はあるし、文系学部を卒業した女性が翻訳者になる割合は多いだろうから、そのベテラン講師の発言は一般的なものかもしれない。
しかし、多文化共生時代を実現するために活躍するはずの翻訳者が、あえて「男性」翻訳者と強調したいが、ジェンダー偏向の意識を変えるように努力しなければならないだろう。
確かに、社会の意識が変わらなければ、使う言葉も変わらないので、翻訳者が頑張ったところで無意味かもしれない。
それでも、聖書の「きょうだいたち」のように、翻訳で示すことで、それを読む人たちに影響を及ぼすことはできるのではないか。
もう1つ例示したいのは、自称1000万円翻訳者の浅野正憲がブログでよく書いている、「在宅翻訳は女性におすすめ」という表現だ。
4月21日の記事「英語を使う職業ピックアップ!女性に人気の職業も公開!」から、一部を引用しよう。
さすが、ジェンダーギャップ指数が121位の日本社会だ。
女性が子育てをして、外で働けないから在宅でできることを探そう、というジェンダー偏向表現が堂々と掲載されている。
これは、浅野正憲が運営する翻訳講座の公式ブログなのだから、個人的感想では片づけられない。
しかも、運営者情報をクリックすると、Trans Innovation という翻訳会社(ダミー?)のサイトに誘導されるのだから、このようなジェンダー偏向の表現を会社として認めていることになる。
この記事には、「翻訳者とは、異なる言語の文章を他の言語におきかえる仕事です。」とも書いている。
単に置き換えるだけならば、機械翻訳を使えばよい。
人間の翻訳者に求められているのは、翻訳対象の言語を使っている社会の文化的背景も理解して、その表現を尊重しながら、別の言語でふさわしい表現を見つけることだ。
無意識にジェンダー偏向表現を使ってしまう自称翻訳者は、多文化共生社会で生き残れるだろうか。
他の翻訳者の SNS などを見ても、翻訳者を目指す女性を罵倒する投稿もある。
本音を言って、ストレス発散なのかもしれないが、多文化共生社会では信頼されなくなるだろう。
日本では内閣府に男女共同参画局を設けて、様々な取り組みを進めているが、2019年のジェンダーギャップ指数が世界で121位で、下から数えた方が早いという残念な現状である。
ここで海外の先進国に学ぼうという主張をするとき、「北欧では」とか、「ドイツでは」という例示をするためか、「出羽守」と揶揄されることも多い。
それでも、ダイバーシティ・インクルージョンという考え方を取り入れて、社会意識の変革を進める方が日本の将来のためになるならば、「出羽守」と冷やかされても主張を続けたい。
今回参考にしたのは、英語教育2020年5月号の連載記事「多文化共生時代に学ぶ英語 第2回」だ。
タイトルは、「ダイバーシティ・マネジメントの課題 -ジェンダーにまつわる表現を例に」。
ジェンダーの言語問題として、現代英語では、両方の性にかかわることがらを、一方の性を表す言葉で代表してはならないとしている。
化学関係の国際会議に参加したとき、プログラムには chairman ではなく chairperson と書いてあった。
また、everyone や everbody を受ける代名詞では he or she を使っていたが、最近は they が使われるようになった。
ただ、記事中にはなかったが、第三の性で they を使うようになったので、今後も工夫は続くだろう。
有名な言葉として、All men are created equal. が例示されている。
これも、男性を意識させる men ではなく、all men and women / all people / we / all of us が推奨されている。
英語の包括的な言い方として、排他的な言い方をしない、そして、平等ではない言い方をしない、が挙げられている。
排他的な言い方とは、例えば、Employees are welcome to bring their wives and children. では、男性従業員に宛てたとしか思われない。
また、同列ではない、平等ではない言い方とは、例えば、a female doctor など、わざわざ「女性」であることを書く表現だ。
日本語でも、最近は「きょうだい」と平仮名書きにして、男女両方を含むように工夫するようになった。
新約聖書でも、新しい聖書協会共同訳では、以前の「兄弟たち」という呼びかけを「きょうだいたち」に変えた。
ドイツ語聖書のように、「兄弟姉妹たち」にすることも可能だが、「きょうだいたち」の方がより平等な言い方だろう。
ところで、翻訳者は常日頃、外国の情報や文化に触れているのだから、ジェンダーの言語問題はクリアしているだろうか。
これまでの経験や先入観もあって、女性差別をしているつもりはなくても、「目に見えない侵害」をしているかもしれない。
私の反省も含めて、以下に例示したい。
ある特許翻訳のセミナーで高齢のベテラン講師が、「女性は電気や物理が苦手だから、特許の内容理解に苦労する人が多い」と発言した。
まあ確かに、大学の理系学部で男女比を見ると、生物系や薬学系で女性の割合が多くなる場合もあるが、圧倒的に男性が多い。
さらに、ノーベル賞受賞者を自然科学3賞で見ると、ほとんど男性研究者だ。
そのような現実はあるし、文系学部を卒業した女性が翻訳者になる割合は多いだろうから、そのベテラン講師の発言は一般的なものかもしれない。
しかし、多文化共生時代を実現するために活躍するはずの翻訳者が、あえて「男性」翻訳者と強調したいが、ジェンダー偏向の意識を変えるように努力しなければならないだろう。
確かに、社会の意識が変わらなければ、使う言葉も変わらないので、翻訳者が頑張ったところで無意味かもしれない。
それでも、聖書の「きょうだいたち」のように、翻訳で示すことで、それを読む人たちに影響を及ぼすことはできるのではないか。
もう1つ例示したいのは、自称1000万円翻訳者の浅野正憲がブログでよく書いている、「在宅翻訳は女性におすすめ」という表現だ。
4月21日の記事「英語を使う職業ピックアップ!女性に人気の職業も公開!」から、一部を引用しよう。

さすが、ジェンダーギャップ指数が121位の日本社会だ。
女性が子育てをして、外で働けないから在宅でできることを探そう、というジェンダー偏向表現が堂々と掲載されている。
これは、浅野正憲が運営する翻訳講座の公式ブログなのだから、個人的感想では片づけられない。
しかも、運営者情報をクリックすると、Trans Innovation という翻訳会社(ダミー?)のサイトに誘導されるのだから、このようなジェンダー偏向の表現を会社として認めていることになる。
この記事には、「翻訳者とは、異なる言語の文章を他の言語におきかえる仕事です。」とも書いている。
単に置き換えるだけならば、機械翻訳を使えばよい。
人間の翻訳者に求められているのは、翻訳対象の言語を使っている社会の文化的背景も理解して、その表現を尊重しながら、別の言語でふさわしい表現を見つけることだ。
無意識にジェンダー偏向表現を使ってしまう自称翻訳者は、多文化共生社会で生き残れるだろうか。
他の翻訳者の SNS などを見ても、翻訳者を目指す女性を罵倒する投稿もある。
本音を言って、ストレス発散なのかもしれないが、多文化共生社会では信頼されなくなるだろう。