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派遣社員のときに書いた特許が成立していた

今は特許翻訳をしているが、実際に特許を書いた経験は1回しかない。
それは約20年前、大学でのポスドクを辞めて派遣社員となり、研究職として最初の勤務先となった民間企業でのことだった。
そのときは明細書の原稿を書いただけで、次の派遣先に異動したので、その特許がどうなったのかはわからなかった。

今日は機械翻訳の性能チェックのために、対象としてふさわしい化学系特許を探していた。
どうせ試すならば、自分が触ったことがある化合物が良いと思い、その化合物名で検索してみた。
すると、私が発明者の特許が存在することを、偶然発見した。

ここでその特許出願の公開番号を書いてもよいが、このブログは一応匿名扱いなので、ごく親しい知人にのみに知らせようと思う。

派遣先の企業は、田舎の海沿いにある小さな町にあった。
素材メーカーの子会社で、その技術力を活用するために、他社向けの中間体製造をしていた。
研究所というには小規模だが、工場で生産する前に実験室規模で合成法の開発を行っていた。

私の最初の仕事は、フォトクロミズムを示すある色素の重要中間体について、合成法の改良を行うことであった。
具体的には書けないが、「縮合多環芳香族化合物のハロゲン置換体」ということにしておこう。

運よく約半年で改良法を見つけたが、依頼元が特許を取る権利があると主張して、私は発明者になれなかった。
数年後に、その改良法で特許出願されて、その依頼元ではフォトクロミズム関係の研究で論文博士を取得した研究員もいた。

この中間体では特許出願できなかったものの、その中間体を使って、依頼元とは無関係の合成をすれば、独自に出願できるのではないかということになった。

ということで、次の派遣先に行く前の2か月くらいは、特許出願のための実験をしていた。
ここでも具体的な化合物名は書けないが、「パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応によるアリールアセチレン誘導体の合成」である。

原料となるハロゲン置換芳香族の構造式を見れば、誰でも思いつく合成であり、目的物は既存の化合物である。
ただし、文献の合成法は多段階であり、しかも面倒な操作が続き、収率も低い。
ということで、機能性材料の中間体として期待されるアリールアセチレンを、簡単に合成する方法には価値がある。

社内の知財部の審査後に出願となれば、報奨金が2万円という話もあったが、派遣社員はもらえないとのことだった。
まあそれでも、頼まれた仕事をきちんと完成させるのが化学者のプライドである。

再現可能な実験の部を書くことに専念して、明細書の他の部分や請求項は、知財部が完成させたようだ。
私が他の派遣先に移って4年後に出願されていた。
そして請求項を補正して、2012年に特許すべきものとする審決が出された。

すでに特許維持のためのお金を払っていないので、その合成法は誰でも使えるものになっている。
最近は別の合成法も開発されているので、私の合成法を使う人はいないようだ。

それでも、この世に存在した化合物に、その存在の証を残すことができたというのが、化学者としてうれしいものだ。

私が大学に残れなかったために、論文になっていない化合物がいくつかある。
もし大金持ちならば、どこかの大学に寄付して、研究を再開したいものだ。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: 冒認特許?

コメントありがとうございます。

この問題は20年前に、いわゆる「社内の政治的判断」で決着したことになっています。
私は契約書を見ていませんが、「アイデアもデータも、すべて委託元に帰属する」というのが、委託元の言い分でした。
本来は、研究委託元と受注側が一体となって改良法を検討したことになりますが、立場は対等ではないということですね。

せっかく見つけた合成法なので、その中間体を利用して無関係の化合物を合成して、独自の特許を出願することになりました。

論文の著者でもそうですが、誰が主体的に関与したのか、常に問題となるものです。
私が権利主張するというよりも、同じ体験をして悩む研究者がいなくなるように、環境整備をしてほしいものです。

知財立国と言いながら、古い慣習で下請けが泣き寝入りというのは変な国です。

冒認特許?

あなたが発明したにもかかわらず発明者になっていないということは、あなたは出願した会社に特許を受ける権利の譲渡を行っていないのですよね。ということは冒認特許ということになります。「特許を取る権利」は原始的に発明者に所属しますから、委託先が「特許を取る権利」を主張しようとすると「発明者から特許を取る権利の譲渡」を受ける必要がありますよね。駄々こねてみますか?
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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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