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ドイツ語で COVID-19 は中性名詞

ドイツメディアでニュースを読むときにも、辞書に載っていない新語に出会う。
語義を調べるだけではなく、名詞であれば文法上の性が気になることもある。

新型コロナウイルスの流行を伝えるニュースでも、様々な新語が生み出されている。

Gesellschaft für deutsche Sprache では、コロナシリーズという言語面の連載記事を提供している。
本日5月12日の第11回は、coronafrei などの形容詞についてだ。
gfds.de/coronafrei-vulnerabel-und-kontaktbeschraenkt-die-aktuellen-covid-19-adjektive/

他に気になって調べたのは、略号の固有名詞 COVID-19 の性である。
DUDEN のオンライン辞書で検索したところ、中性名詞だった。
www.duden.de/rechtschreibung/Covid_19

デジタルドイツ語辞書 DWDS のサイトでも中性名詞。
www.dwds.de/wb/COVID-19

文法事項の説明を確認すると、das Covid-19 とあり、単数2格(属格、Genitiv)は des Covid-19 で、語尾に -s は付けない。
また、単数形のみで、複数形はない。

中性名詞なのだが、たいてい無冠詞とのことなので、知らなくても大丈夫なようだ。

どうして中性名詞になるのか、その理由については調査中なので、見つけたら追記しておこう。

一説では、新語は中性名詞にすることが多いという。
日経スタイルの記事のリンクは次のとおり。
style.nikkei.com/article/DGXNASDB27001_X20C13A6000000

ただし、Berliner Morgenpost の記事では、
die COVID-19 と、女性名詞になっており、すでに「性の揺れ」が生じているようだ。

www.morgenpost.de/kolumne/deutschstunde/article229043741/Der-Primat-der-deutschen-Bindestriche.html

Die Krankheit, die es auslöst, ist die Covid-19 (Coronavirus-disease 2019). Das „d“ steht für engl. disease („Krankheit“).

これは、英語の disease に当たるドイツ語の Krankheit が女性名詞であるため、それに合わせたのだと思われる。

ちなみに、フランス語では女性名詞とのことだ。
アカデミーフランセーズの説明は次のリンクから。
www.academie-francaise.fr/le-covid-19-ou-la-covid-19

英語で説明している記事は次のリンクから。
www.rfi.fr/en/science-and-technology/20200511-la-covid-is-feminine-suggests-prestigious-french-academy


英語の disease に当たるフランス語の maladie が女性名詞だから。
そのため Berliner Morgenpost でも、同様の類推で女性名詞として扱ったのかもしれない。


複数言語を学んでいる人にとって苦労する名詞が増えてしまった。
ただし、英語でもドイツ語でも、そしてフランス語でも、無冠詞で使うことがほとんどだから、あまり問題にはならないだろうが。

時間があれば、少しかじっているノルウェー語やアイスランド語も調べてみよう。

テーマ : ドイツ語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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No title

性についてこんなに詳しい翻訳家ならではの、
ご意見を拝読させていただいたのは初めてです。
ありがとうございます。
自分も未成年の時は翻訳家も面白いんじゃないかなって、
英文解釈の参考書を広げている時には感じました。
ハックスレーの著作なんかを好んで解釈してました。
リタイアした業種は理系でしたけれど、幸いローレンツ変換やフーリエ変換などとは無縁で過ごせました。
>>代名詞が指す先行詞がはっきりすることです。
なるほどです。
英語のレッスンにも通っているんですが、
脱線して日本語の同音異義語(Homophone)のあまりの多さに先生が嘆くのです。いやーそれはね、中国語が外来語として入ってきた時に母音が1/4に減ったからなのよと慰めてあげました。

No title

コメントありがとうございます。
名詞の性の起源については諸説ありますが、まだ判明していないはずです。専門の論文に譲るとして、すでに存在しているもの、将来は変わりうるものとして受け入れています。

特許で名詞の性が役立つのは、代名詞が指す先行詞がはっきりすることです。機械などの構成部品が複数列挙されてから、関係節があるときに、関係代名詞が男性の der であれば、その前にある男性名詞を探します。英語のときは関係代名詞の直前に置くので、ドイツ語とは語順が変わる場合もあります。

他にも、つづりがや発音が同じで意味が異なる場合に区別できます。

また、これは私の勝手な想像ですが、相手に伝えるときにあいまいさを避ける、つまり発信者が責任を持つのがヨーロッパの言語で、あいまいさを残しても相手が配慮して解釈することを期待するのが日本語のような気もします。だからドイツ語では、3つの性を残していることを自負しているのでしょう。

No title

外国語の性の設定は何の役に立っているのでしょうか。
ネクタイ die Krawatteは、男性の首を絞めるので女性?
戦争 la guerre が、何で女性名詞?
der See(湖)と die See(海)とdas Meer(海)
主語すら省略してしまう日本語に、
こんな無駄な冗長回路はあるのかしらん。

新しい語彙に対するフランス語の性の決定原則。
 1.外来語は、le.  特にジャーナリズムで
  La campagne de vaccination contre le Covid-19
  avancée au 2 octobre alors que la circulation duvirus augmente en France.(Le Monde)     
 2.複合名詞では最後の名詞に準拠 フランス官庁の見解
  La covid-19  dIseaseのフランス語は、la maladie
因みにAIDSのフランス語は le SIDA 含まれる名詞は、
le syndrômeだけだから。
U-Bootの場合、WasserもBootも中性なのでDas U-Bootで
ほっとするけれどドイツ語の複合名詞で性の違うものが同居していたらどのような原則があるのでしょうか。
ライン川クルーズでは釣道具を持って行くつもりでしたが、
旅人用ライセンスが要るそうです。これまでの釣り歴と釣りに対する情熱(翻訳ミスか)をドイツ語で著す筆記試験にパスしなければならず諦めました。ドナウ川ではオーストリアに入ったころから岸辺で釣りをする人をよく見かけました。
来春には地中海側のアビニヨンから大西洋側のノルマンディーまでローヌ川とセーヌ川をクルーズしてフランスを縦断する旅を計画していてフランス語の個人レッスンに通い始めました。
 



プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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