fc2ブログ

英語の多義語: compound は「化合物」だけではない

勤務先の翻訳会社での仕事の1つとして、英日特許翻訳のトライアル課題の作成と訳文の評価がある。
私は化学者なので、担当する分野は化学や医薬がほとんどだ。

課題を作成するときは、なるべく1年以内に公開されたUS特許またはWO特許から探して、しかも日本特許庁に和訳が提出されていないことを確認している。

それでも似ている表現はあるので、類似特許を検索すれば、専門用語の和訳を参考にできる場合もあるだろう。
もし一般的な辞書にない専門用語であれば、それは調査力を測るためのキーワードとなる。

また、基本的な単語であっても、多義語の場合は、適切な訳語を選択しているかどうかを評価ポイントにできる。

そのような評価ポイントになる専門用語や多義語を含む箇所を選んでいるが、別にそれは意地悪な引っ掛け問題を作っているわけではない。
特許翻訳では日常的に出会うものなので、それを省く方が不自然だ。

これまでにいくつかトライアル課題を作成してみて、compound という普通の名詞が意外にも難しい単語であることを知った。

具体的な公報番号は出せないが、ビタミン類とアスピリンとの合剤(配合剤)の特許である。

合剤とは、複数の医薬成分を1つの薬剤に配合したものだ。
英語では combination を使うことが多いようだが、この特許では compound を使っていた。

出題者としては出願人の意図を推測して、合剤配合剤複合剤という、普通の辞書には載っていない訳語を想定していた。
ところが、混合物複方、そして化合物と、翻訳者ごとに異なる訳語になっていた。

そのうち、化合物」と誤訳した翻訳者を不合格とした。
実際には医薬の話だが、化学系特許と伝えたためか、「化学ならば compound は化合物だ」と判断したのかもしれない。

また、この翻訳者は誤訳しただけではなく、図面を確認していないと推測したのも、不合格の理由である。
課題文に図面は添付していなかったが、公報番号は知らせてあり、必要に応じてダウンロードして確認するように注意事項に書いておいた。

図面には錠剤の模式図があって、その錠剤内部には、ビタミンを含有するカプセルが埋め込まれている。
そのカプセルの周りがアスピリンを含む部分であるから、図面からも化合物では変だと気付くことはできたはずだ。

カプセル化することで有効成分が消化管内で溶け出す時間をずらすことができるのが特徴だ。
その特徴を反映するように訳語を考えることも、翻訳者には求められている。

その特許には、以下のように、combination も含むバリエーションが出てくる。

1) a vitamin and aspirin compound
2) a vitamin/aspirin compound
3) a compound comprising a vitamin and aspirin
4) a compound dosage comprising a vitamin and aspirin
5) a combination of vitamins and aspirin


図面を見ずに訳していても、基本的な化学の知識として、化合物の定義を知っていれば、途中で「化合物では変だな」と気付くと思われる。
もし気付かなくても、5) の combination が出てきたときに、「やはり化合物では変だ」と気付いてほしかった。
そして図面を確認して、「これは複合物かな?」などと考えることを期待していた。

他の請求項などの面倒な構文はきちんと和訳しているのに、あまりにももったいないことだ。

「その程度の誤訳ならばチェック時に修正すればいい」と言われそうだが、複数の候補者がいるときに優先はできない。
それよりも、化合物では変だなと感じなかったことと、図面を確認しなかったことが不安要素なのだ。

私もこれまで、すべてのトライアルに合格したわけではない。
不合格だと落ち込んでしまうものだが、地道な学習を積み重ねて、諦めずに取り組み続けてほしい。

テーマ : 英語
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

FC2カウンター
カテゴリ
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR