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社内のみ通用する略称を使った実験ノートは証拠書類になるだろうか

翻訳をしていて困ることの1つに、社内用語がある。
一般的に使われている装置や部品の名称、そして操作方法などでも、その会社だけの意味で使っていることもある。
親切なクライアントは、「〇〇とは~という意味」という一覧表を付けてくれることもある。

それはまれなケースで、参考資料が何もないことが多く、納品後に「社内で使っている用語と違う」ということで、追加料金なしで修正を依頼されることもある。

一度就職すると定年まで働くことが当然と思っている人は、社内用語ばかり使っていて、正しいと思い込んでいるのだろうか。
まあ、学会ごとに専門用語が違うこともあるので、縄張りというのか、その組織特有の用語や解釈が生まれるのだろう。

ポスドクや派遣社員として各地を転々とした私にとっては、その組織特有の略称や呼称というのは理解できずに苦労した。
同じ化学の研究をしているのに、実験ノートを見ても、使っている薬品や溶媒が理解できないこともあった。

あるグローバル企業の研究所で派遣社員として働いたとき、実験内容を記したメモで、溶媒名が「AN」という略称で書かれていて困惑した。
その実験を指示した上司に質問すると、「我が社ではANとはアセトニトリルのことだ」と説明された。
他にも主な溶媒には、工場も含めて会社内でのみ通用する略称を付けているという。

化学論文で使われる溶媒や試薬の略称は様々あるが、それまでの研究経験で、アセトニトリルをANと書いた事例は見たことがなかった。

社内用語を変えることは無理なので、私の実験ノートには「CH3CN」または「MeCN」と書いて、誰でもわかるようにした。

このとき思ったのは、社内用語で書いた実験ノートは証拠書類として有効なのかどうか、ということだ。

論文でも特許でも、記載内容に疑義が生じると、オリジナルの実験ノートや測定データなどの提示が求められることがある。
溶媒名が問題になることはほとんどないと思われるが、一般には通用しない社内用語で記録した場合に、「この略号はこういう意味だ」と説明しても、紛争相手に信じてもらえるだろうか。

独自開発の触媒などに略称を付けたとして、実験ノートの最初のページに対応表などを添付しておかないと、証拠書類としての効力は弱くなるのではないか。

そのような理由から知財関係の部署が指導しても、定期的に研修したり、実際に実験ノートの点検をしなければ、現場では楽な方を選ぶだろうから、改善しないかもしれない。

論文の撤回事件では、実験ノートの記載の不備が問題になったこともある。
特許でも同様の事例はあるのかどうか、時間があれば調べてみよう。

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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