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ナフタレンをナフタリンと呼ぶのもやめよう

(最終チェック・修正日 2021年02月05日)

ベンゼン環2個が縮環した化合物の名称は
naphthalene ナフタレンで、ドイツ語では Naphthalin

以前はナフタリン
という日本語名称も使われていたが、現在はナフタレンのみだ。

ただ、検索すれば明らかなように、21世紀になっても「ナフタリン」で特許申請が行われているので、和訳されたドイツの特許にナフタリンが出てきても、誤訳と決めつけることはできないかもしれない。

ただ、特許は文学作品ではないのだから、今は廃止された旧称をわざわざ使うこともないと思う。
ドイツ語由来の日本語名称を大切にしたいのかもしれないが、日本語での化合物命名法を知らないと疑われてしまう。

有機化学を勉強すると、芳香族化合物として基本の六員環のベンゼンを必ず学ぶ。
そして大学ならば、2個のベンゼン環が縮合したナフタレンも学ぶ。

縮合(fusion)とは、2つの環がそれぞれ1つの結合と、その結合に直接付いている2つの原子とを共有して、共通の結合を作ることである。

それぞれの構造式と名称(英・独・日)を以下に示したので確認してほしい。
benzene_naphthalene.jpg 

英語名として benzenenaphthalene を示した。
ただし、より正確に言えば、IUPAC 命名法による 
優先IUPAC名(PIN)である。
基本的に英語を原語として命名する規則のため、ほとんどの化合物名は英語名と同じになる。

この英語を原語とする PIN から、各国語に翻訳して、それぞれの言語での PIN の表記とする。

日本語名称のつくり方は複数あるが、この場合はいずれも、発音を無視した規則に従ってカタカナに字訳する。
そのため、benzene は「ベンゼン」のみで、「ベンゾール」ではないし、naphthalene は「ナフタレン」のみで、「ナフタリン」ではない。

ドイツ語の場合、元々のドイツ語名称と、PIN をドイツ語風に表記した名称の両方が存在する。
benzene では Benzol の他に Benzen も使われ、naphthalene では Naphthalin の他に Naphthalen も使われている

最近の専門書や論文、特許などでは、PIN 由来の Benzen や Naphthalen が増えてきた。

初期の有機化学の発展に多大な貢献をしたドイツでさえ、英語を原語とする PIN に合わせるように変化しているのだから、日本で旧称の「ナフタリン」を復活させようとしなくてもよいだろう。

ということで、Naphthalin は代表的な独和辞典ではどうなっているのか、参考までに5つ列挙しておこう。
他の独和辞典も含めて、新しく発行されたときには調べてみよう。
翻訳者が頼りにしている辞典もあるが、最新の化合物命名法を採用しているわけではないことを知ってほしい。

1) 小学館独和大辞典第2版(コンパクト版)8刷  ナフタリン
2) 三修社アクセス独和辞典第3版第9刷     (なし)
3) 大修館書店マイスター独和辞典3版       ナフタリン
4) 三修社新現代独和辞典新装版第1刷       ナフタリン
5) 郁文堂独和辞典第2版第13刷         
ナフタリン

ちなみにオンライン辞書から補足しておこう。
6) Linguee ナフタリン
ナフタレン


追記(2021年02月05日):
7) コンサイス独和辞典第5版第6刷        
ナフタリン

(最終チェック・修正日 2018年09月06日)有機化学を勉強すると、芳香族化合物で必ずベンゼンを学ぶ。6個の炭素原子が六角形の環を作るように互いに結合しているのが特徴だ。化合物の名前は、昔から使われている慣用名や通称、別名などがたくさんあるので、混乱することもある。ベンゼンでも、ドイツ語の Benzol に由来すると言われる「ベンゾール」を使う人がまだいる。独和辞典で Benzol の訳語に 「ベンゾール、ベンゼン」と...
ベンゼンをベンゾールと呼ぶのはもうやめよう

テーマ : ドイツ語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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No title

おっしゃることはわかりますが、英語ではナフタリーンと呼ぶので。ナフタリン禁止令を出して、それを言い出すと、収集がつかなくなります。
たとえば、
アルカンって日本語ではいいますが、英語ではアルケィン。
アルケンって日本語でいいますけど、英語ではアルキーン。
アルキンって日本語でいいますけど、英語でアルカインです。
「ナフタリンと呼ぶのを止めよう」と本気で声高に叫ぶと、
「この人、化学知らないんだな」って思われてしまいますよー。



プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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