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安倍政権の失敗の1つは働く女性が増えなかったこと

もうすぐノーベル賞受賞者の発表である。
科学技術創造立国と言い出してから、偶然なのだが、同年に化学と物理で複数の受賞があったり、連続して受賞者が出ることもあった。
受賞対象の研究は、その政策が始まるだいぶ前の業績なのだが、日本はすごいぞという誤解が生じた。
はやぶさの小惑星探査など、世界をリードする成果も見られたが、いつまでたっても「科学技術立国」の目標は達成されていない。

まあそれでも、この政策が始まる少し前から大学院重点化ということで、私も博士1年のときから月16~18万円の奨学金がもらえて、年90万円の科研費も3年間もらえた。

そして科学技術立国の政策の1つとしてポスドク等1万人計画があったから予算が増えて、ドイツに2年も留学できたようなものだ。
留学時は年間約450万円(日当+宿泊費扱い)に加えて、研究費が年60万円もらえた。

帰国後も2年間ポスドクを続けたが、ある私立大学で内部告発をしたことが響いたのか、大学にポストを得ることはできなかった。
民間企業に移っても、結局は研究所の閉鎖で退職することになり、今は翻訳会社で働いている。
化学研究者としてのキャリアが活かせる特許翻訳だし、しかも英語とドイツ語の両方が使えるので、異分野での理系人材の活用ということにはなっているかと思う。

悔し紛れに言うわけではないが、現在の研究環境を考えると、大学に残れなくてもよかったかもしれない。
帰国後に続けるはずだった研究テーマがあるが、それは宝くじでも当たったら、誰かに寄付して論文にしてもらおうと思う。

前置きが長くなったが、安倍政権でも新しい菅政権でも、日本の科学技術政策は目標未達で終わるかもしれない。

Nature 2020年9月10日号では、"Japan after Abe: time for a fresh start" と題する評論が掲載された。
記事のリンクは次の通り。
www.nature.com/articles/d41586-020-02540-w
media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-020-02540-w/d41586-020-02540-w.pdf (PDF版)

これを紹介している日本語記事は少ないが、以下を参照してほしい。

例えば、エナゴ学術英語アカデミーというサイトは次の通り。
www.enago.jp/academy/japanese-science-after-abe/

また、日本経済新聞電子版2020年09月25日の記事中でも一部引用している。
www.nikkei.com/article/DGXMZO64202910U0A920C2TJM000/

ここで注目したいのは、Nature が自然科学分野でのジェンダー不均衡(gender imbalance)について、小見出しを付けてまで指摘しているにもかかわらず、日本経済新聞の記事ではまったく触れていないことだ。

PDF版で見たときに、本文のカラムの間、中央部分に書かれていることに注目してほしい。

"One of Abe's most notable failures has been in his government's inability to fulfil a promise to improve gender diversity in Japan's workplaces."

エナゴ学術英語アカデミーの記事で概要を紹介しているように、自然科学分野の女性研究者の割合は、2019年時点でわずか 16.6% であり、2020年までに 30% にする目標は未達に終わると予想されている。

ドイツも特に大学教授で女性が少ない国に挙げられるが、それでも女性研究者の割合は 28% だ。
日本の女性研究者の割合は、G20 諸国で最低であり、「女性が輝く社会」などと言っていたのに、何も変わっていない。
女性研究者の人数は、確かに年々増加しているものの、目標未達であることには変わりない。

まあこれは、安倍政権が頑張っても無理だったかもしれない。
民間企業の社長や管理職の女性割合でも、大学教授の女性割合でも、菅内閣での女性大臣の割合を見ればわかるように、日本では男性中心に物事を進めること
alpha-male leadershipが当然視されているのだ。

学会が女性研究者を増やすために、「理系女子」などのキーワードを含むイベントを開催しているが、自分の娘が博士号を取ることを望む親はどれくらいいるだろうか。

これまでと同様に、薬剤師だったり、食品・栄養関係だったり、臨床検査技師など、何か資格が取れる分野ならば人気はあるかもしれないが、純粋な基礎科学分野で女性研究者を期待している人は少数派ではないか。

本人に研究者としての能力があるかどうか、性格が研究に向いているかどうかではなく、女性はこうあってほしいという非論理的な固定観念が邪魔している。

現状でも女性研究者が劇的に増える状況ではないので、20年以上前の私の大学での体験も、過去のものではないだろう。

世界的にも有名で、文部科学省の未来開拓事業にも採択された旧帝大の男性教授が、女性蔑視とも言える発言をした。
「卒論の研究室配属希望を受け付けるが、女子学生はいらない。就職の世話が面倒だ。」

グローバル企業と称する有名化学企業の研究所でも、結婚した女性社員が退職することを望む管理職は多かった。
ある飲み会で、「社員一人に〇×万円も経費がかかっているんだ」と、結婚後も勤務を続けている女性社員の前でわざと言う管理職もいた。
産休を複数回取得した女性社員を、「働かずに金をもらっている」などと非難する男性社員もいた。

さらに、「うちはメーカーだが、建設業と同じくらい女性管理職が少ないのだ」と、変な自慢をする管理職もいた。
会社のために長時間残業をしたり、休日も自主的に研究所に来るような、滅私奉公する男性社員が理想なのだろう。
胃潰瘍などで入院した回数を自慢する管理職もいたから、命令に服従する羊のような男性社員のみで研究室を構成したいのかもしれない。

だから理系女子学生の就職は元々困難だったし、修士卒だと年齢のこともあって紹介先が見つからないので、研究の邪魔だと考える男性大学教授がいても不思議ではない。

自然科学分野の研究成果が経済発展に寄与するかどうかが話題となりやすいが、若手研究者の待遇や女性研究者のための環境整備にも注目して、これからの10年を考えてほしい。

もしかすると10年後には、日本からの論文も特許申請も激減して、日本は世界から相手にされない後進国になっているかもしれない。

テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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