ニトリルの命名法は面倒: アセトニトリルとシアン化メチル
私は化学研究者だったので、化合物の命名法について気にしている。
特許の場合は、慣用名や古い名称なども認められるようだが、どうしても正式な「優先IUPAC名(PIN)」を使うことにこだわってしまう。
原文の英語がPINではない場合も多く、仕方なく原文ママで和訳することが多い。
ただ、どうしても違和感が残るので、PINの日本語名称を使うように宣伝している。
まあこんなことを言うのも、日本語名称の規則を作っている日本化学会だけなのかもしれない。
今回気になったのは、国立天文台の研究紹介である。
www.nao.ac.jp/news/science/2020/20200925-alma.html
生まれたばかりの恒星の周辺にある分子 CH3CN acetonitrile が「アセトニトリル」ではなく、「シアン化メチル」と書いてあったからだ。
引用している論文で確認すると、methyl cyanide と書いてあったので、そのまま和訳したのだろう。
iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/abadfc
シアン化メチルの方が分子の構造がわかりやすいかもしれない。
また、英語論文を参照しながら読む人にとっては、英語表記に近いシアン化メチルと和訳してあった方が混乱しないのかもしれない。
ただ、化学者としては、使ったことがない「シアン化メチル」よりも、HPLC溶媒などで馴染みのある「アセトニトリル」の方が違和感がない。
しつこいようだが、IUPAC 命名法を確認しておこう。
ニトリルR-C≡Nの命名法は3種類あり、化合物によって使い分けるので面倒かもしれない。
(1) -(C)N に対しては接尾語 ニトリル nitrile、-CN に対しては カルボニトリル carbonitrile を用いて置換命名法で命名する。
CH3CH3 ethane + ≡N nitrile = ethanenitrile
(2) カルボン酸の保存名の語尾 ic acid または oic acid を オニトリル onitrile にかえて命名する。
CH3COOH acetic acid ⇒ CH3CN acetonitrile
(3) 官能種類命名法により、化合物種類名の シアニド(シアン化物)cyanide を用いて命名する。
CH3 methyl + CN cyanide = methyl cyanide
CH3CN は鎖状モノニトリルなので、原則としてPINは (1) の ethanenitrile エタンニトリル となり、またPINではないが、(3) の methyl cyanide シアン化メチル または メチルシアニド も可能なはずだ。
しかし、PINは、 (2) のカルボン酸の保存名(CH3COOH acetic acid 酢酸)由来の acetonitrile のみである。
このPINを字訳するので、日本語名称は アセトニトリル のみだ。
これまで一番使われていた名称(常用名)が保存名としてPINになることもある。
例えば、HC≡CH のPINは、ethyne エチン になりそうだが、実際のPINは acetylene アセチレン である。
これとは対照的に、HCN のPINは、これまでの hydrogen cyanide シアン化水素 ではなく、formic acid ギ酸 由来の formonitrile ホルモニトリル である。
面倒な規則ではあるが、今はこれが正式な命名法なので、従うしかない。
でも特許は学術論文ではないので、古い命名法で付けた名称がこれからも使われることだろう。
特許の場合は、慣用名や古い名称なども認められるようだが、どうしても正式な「優先IUPAC名(PIN)」を使うことにこだわってしまう。
原文の英語がPINではない場合も多く、仕方なく原文ママで和訳することが多い。
ただ、どうしても違和感が残るので、PINの日本語名称を使うように宣伝している。
まあこんなことを言うのも、日本語名称の規則を作っている日本化学会だけなのかもしれない。
今回気になったのは、国立天文台の研究紹介である。
www.nao.ac.jp/news/science/2020/20200925-alma.html
生まれたばかりの恒星の周辺にある分子 CH3CN acetonitrile が「アセトニトリル」ではなく、「シアン化メチル」と書いてあったからだ。
引用している論文で確認すると、methyl cyanide と書いてあったので、そのまま和訳したのだろう。
iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/abadfc
シアン化メチルの方が分子の構造がわかりやすいかもしれない。
また、英語論文を参照しながら読む人にとっては、英語表記に近いシアン化メチルと和訳してあった方が混乱しないのかもしれない。
ただ、化学者としては、使ったことがない「シアン化メチル」よりも、HPLC溶媒などで馴染みのある「アセトニトリル」の方が違和感がない。
しつこいようだが、IUPAC 命名法を確認しておこう。
ニトリルR-C≡Nの命名法は3種類あり、化合物によって使い分けるので面倒かもしれない。
(1) -(C)N に対しては接尾語 ニトリル nitrile、-CN に対しては カルボニトリル carbonitrile を用いて置換命名法で命名する。
CH3CH3 ethane + ≡N nitrile = ethanenitrile
(2) カルボン酸の保存名の語尾 ic acid または oic acid を オニトリル onitrile にかえて命名する。
CH3COOH acetic acid ⇒ CH3CN acetonitrile
(3) 官能種類命名法により、化合物種類名の シアニド(シアン化物)cyanide を用いて命名する。
CH3 methyl + CN cyanide = methyl cyanide
CH3CN は鎖状モノニトリルなので、原則としてPINは (1) の ethanenitrile エタンニトリル となり、またPINではないが、(3) の methyl cyanide シアン化メチル または メチルシアニド も可能なはずだ。
しかし、PINは、 (2) のカルボン酸の保存名(CH3COOH acetic acid 酢酸)由来の acetonitrile のみである。
このPINを字訳するので、日本語名称は アセトニトリル のみだ。
これまで一番使われていた名称(常用名)が保存名としてPINになることもある。
例えば、HC≡CH のPINは、ethyne エチン になりそうだが、実際のPINは acetylene アセチレン である。
これとは対照的に、HCN のPINは、これまでの hydrogen cyanide シアン化水素 ではなく、formic acid ギ酸 由来の formonitrile ホルモニトリル である。
面倒な規則ではあるが、今はこれが正式な命名法なので、従うしかない。
でも特許は学術論文ではないので、古い命名法で付けた名称がこれからも使われることだろう。