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古英語でドイツ語の仲間だと実感した

私のドイツ語能力は、まだ上級とは言えないが、ドイツ語圏に旅行に行きたい人や、神学生など参考資料を読むために必要な人から、ドイツ語を教えてほしいと頼まれることがある。

英語が得意な人ならば同じゲルマン語派のドイツ語もすぐに覚えられるだろうと、たいていの人は思っているかもしれない。

大学院生のとき、化学者はドイツ語論文も読めた方がよいと主張して、ドイツ語を習得する必要性を説いていたが、英語だけでも大変だという意見の他に、ドイツ語は英語に似ているから辞書を調べるだけで読めると言う人までいた。

運よくドイツ語を勉強したいという人に出会っても、ドイツ語には、現代英語ではなくなった名詞の性別と格変化が残っていて、冠詞と形容詞まで語尾変化するので、どうしても覚えられないと文句を言われてしまう。

もしかすると、日本人で英語が得意な人は、脳に英語の回路ができあがっていて、ドイツ語の回路を追加して作るのが困難なのだろうか。

私の場合、高校2年生のときに中国語を始め、高校3年生のときにドイツ語を始めたため、英語の回路が中程度の段階で互いに邪魔せずに、うまく切り替えて共存する回路ができたのかもしれない。

それで、ドイツ語文法が面倒だと文句を言われたときには、「英語の方が変わりすぎたのです」と言うようにしている。
また、面倒な語尾変化のおかげで、主語なのか直接目的語なのか、関係代名詞の先行詞はどれかなどの判別が楽だと説明している。

ただし私は語学の専門家ではないので、もう少し説得力のある説明をしたいと思っていた。

すると、今月発売の英語教育
2020年11月号の第2特集(トリビアで英語を楽しむ 語源・慣用表現・英語の歴史)に、最適な記事が掲載されていた。
www.taishukan.co.jp/book/b534365.html

「英語には思春期があった?! 言語は変わる,文法も変わる(藤井 香子・大阪大学外国語学部)だ。

英語が屈折言語であると説明するために、古英語の名詞の例を示している。
男性・女性・中性の3つの文法上の性を持っていたこと、そして格語尾変化があること、これはドイツ語と同じだ。
そして、格語尾変化のおかげで、文中の語順も比較的自由だったのも、ドイツ語と同じだ。

例示された古英語の名詞は、stān
(現代英語 stone、現代ドイツ語 Stein、現代アイスランド語 steinn
古英語のつづりで ā は長母音を表す。

記事では古英語と現代英語との比較のみだが、ここでは語尾変化が残っているゲルマン語派の例として、現代ドイツ語と現代アイスランド語と比較したい。

stān
Stein そして steinn は、これは偶然だろうが、どれも男性強変化名詞。
母音の文字だけ違うので、最初の子音 st の発音が異なっても仲間だと実感できる。

では、格変化を並べて、語尾に注目して比べてみよう(ここでは現代英語は省略)。

     古英語       現代ドイツ語    現代アイスランド語
     stān        Stein              steinn
   単数    複数   単数    複数    単数   複数
主格 stān      stānas     Stein     Steine      steinn    steinar
属格 stānes   stāna      Steins    Steine      steins    steina
              Steines
与格 stāne    stānum    Stein     Steinen    steini     steinum
                                          Steine
対格 stān      stānas     Stein     Steine       stein     steina

ここで現代アイスランド語を並べたのは、現代ドイツ語と比較して、語尾変化が古英語により似ているから。
特に注目したいのは属格と与格だ。

ドイツ語の単数属格語尾は、-es-s の両方が使われている。
どちらかと言えば -es を使うことが多いが、両方あるので、古英語とアイスランド語の仲間だとわかる。

ドイツ語の単数与格語尾は、今ではなくなって Stein を使うことが多いが、慣用句など古い表現では -e が付くので古英語と同じだ。
そして複数与格語尾では、古英語とアイスランド語が同じだ。

アイスランド語の学習はほとんど進んでいないが、ゲルマン語派の比較をするときに理解できるので、ノルウェー語と共にこれからも趣味で続けていこう。

記事では、動詞 singan(現代英語 sing、現代ドイツ語 singen、現代アイスランド語 syngja)の説明もある。
過去、過去分詞、そして接続法の語尾変化が示されていて、現代英語が語尾変化を失ったことを説明している。
ここに書くには分量が多いので、図書館などで読んでほしい。

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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