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「アラームの咆哮」とは何だろう

ある翻訳のセミナーで受講生の1人が、「辞書の最初に載っている意味を選んでいますが、だめですか?」と質問したことがある。

このような人が複数いるためなのか、翻訳チェックの仕事をしていると、違和感のある和訳に出会うことがある。

独日翻訳チェックで最近出会ったのは、アラームの咆哮
セキュリティ装置や目覚まし時計などのアラームの音源が、猛獣やゴジラということなのだろうか。

答えを先に言うと、これは用例調査の結果、アラームの吹鳴に修正した。

例えば、三省堂国語辞典第八版では、それぞれ次のように説明されている。

咆哮 〔けものなどが〕ほえること。
吹鳴 ふきならすこと。「サイレンの―、汽笛の―」

翻訳者が咆哮としたドイツ語の単語は、動詞 aufheulen を名詞化した Aufheulen
この単語だけ見れば「咆哮」でもよいが、文脈から変だと思うのが当然だろう。

その翻訳者が使っている独和辞典は不明だが、例えば、小学館独和大辞典第二版では、動詞 aufheulen は次のように書かれている。

auf|heulen (獣が)ほえ声をあげる; (人が)泣きだす, わめく; (サイレンなどが)鳴り<響き>だす

ここでは獣ではなくアラームということで、一番最後に書かれた語義説明をヒントに用例を探すべきだろう。

「アラーム サイレン 鳴りだす」 などのキーワードで検索してみて、吹鳴を知った。

次に「吹鳴」の使用例を検索してみて、様々な文献や装置の取扱説明書などがヒットしたので、この文脈に合う和訳だと確認できた。

余裕のない納期だったからなのか、調査する時間が足りなかったのかもしれない。
または、違和感を持たなかったのかもしれない。

まあ、どちらにしても、「吹鳴」という言葉を知る機会となったと思うことにしよう。

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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以前にも書いたように、私は有機化学の研究で博士号を取得しているものの、化学分野のすべてを知っているわけではない。 研究室では毎日英語とドイツ語の文献を読み、ポスドクとしてドイツに2年間留学したが、すべての学術用語を覚えているわけではないので、念のため辞書や専門書で確認することも多い。 念のために調べようというひと手間が、翻訳の仕事では大切だと思う。 さらに、「この和訳では変だな」、「こんな...

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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