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特許翻訳でも専門用語の確認が重要だ

英日と独日の特許翻訳をしていて、一番時間を取られる作業は、専門用語の確認ではないだろうか。

トラックバックした記事の additive manufacturing (英語) を再度取り上げよう。
以前は積層造形と和訳していたが、最近は化学工学会の記事を参考にして付加製造にしている。
JIS でも付加製造なので、あえて積層造形を使うという選択はしない方針だ。

辞書では、過去に使われていた訳語を残していることが多く、積層造形と付加製造のどちらを選ぶのか迷うこともある。
訳語のところに「廃止」や「旧」などの表記をしている場合もあるが、たいていは調査が必要になる。
ということで、訳語選択の根拠となる文献資料を探す時間が一番かかるのだ。

英日特許翻訳のチェックをしていて、今年も類似のケースに出会った。
その用語を明示できないので、あいまいな表現になるが、我慢して読んでほしい。

高分子分野の専門用語で、私は有機化学専攻ではあるが、分野が異なるので初めて見た用語だった。
したがって、翻訳者が選択した訳語Aが正しいのか判断できなかった。

いつも使っている JAICI Science Dictionary Pro で検索すると、3種類登録されていた。
翻訳者が選んだ訳語Aの他に、全く異なる訳語B、そして類似の訳語B’。

高分子学会のサイトで用語の定義について調べてみると、訳語Bが記載されていた。
この時点で、訳語Bに修正することにしようと思った。

ただ、この情報は 2009年の文献なので、10年以上経過した現在の用語は、翻訳者が選択した訳語Aかもしれない。

念のため、特許情報プラットフォームで、訳語Aを入れてみると、表示された特許は2件のみ。
しかも外国語特許の和訳であった。
ネット検索してみると、学術論文はヒットしなかった。

訳語Bで調べると多数の特許が表示され、今年出願された日本語での特許もあるので、訳語Bを選択することにした。

修正して納品すれば済むのだが、依頼した翻訳者がどのように専門用語を確定しているのか心配になったので問い合わせした。

「〇〇の訳語を調査すると複数の候補がありました。訳語Aを選択していますが、これを優先する根拠となる文献は存在するのでしょうか。」

翻訳者からの回答は、残念ながら文献の有無をはっきり示すことなく、何を言いたいのかわからない長々とした説明のみ。

これまでも用語の不統一などが目立っていて、フィードバックしても改善されない。
レビュー担当者に丸投げということなのだろうか。
外国語の知識があっても、これでは、一緒に翻訳に取り組んでいるという意識が生まれない。

現状では翻訳者の人数が足りないので、機械翻訳を利用したいと考えるのも当然かもしれない。


(最終チェック・修正日 2021年08月13日)特許やメーカーの資料など、科学技術系の翻訳では、最新の専門用語を確認する必要がある。各学会で用語の改訂をすることもあるので、学会監修の用語集や辞典を購入することもある。英語表記は変わらないのに、日本語表記が改訂されることもある。ネット検索で見つかっても、今は使わない古い用語かもしれないので、念のための確認作業は必須だ。部品の製造法として注目されている技術の1...
付加製造/ additive manufacturing / additive Fertigung (専門用語 日英独)


テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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専門用語の根拠資料として「基礎高分子科学」を購入

今日もいろいろと忙しかった。 教会の伝道委員会担当の役員(長老)として、礼拝で奉仕する伝道委員のためのマニュアルを作成した。 また、明日の伝道委員会のレジュメと、委員会から郵送している手紙も作成した。 先週見学に来た高校生や、6月の一般向け礼拝に関して、牧師や他の役員へのメールも送信した。 やるべきことが多いのはわかっていたが、午前中は買い物などに出かけた。 特に、紀伊国屋書店でポイント2...

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No title

「一緒に翻訳に取り組んでいるという意識」と、校正者から言っていただくのは心強いことです。
 私はチェックの仕事をしないので、取引先から何かアクションがあるとすれば、近ごろはいつも一方的に「ご指導賜る」側ですが、26年前にこの仕事を始めた頃は、直取引の方々とも翻訳会社の方々とも、まだ翻訳(または特許実務)に「一緒に取り組んでいる」という意識を感じられる気がして、双方向的な提案や情報提供や議論も積極的に持つことができました。
 でもそのうち、私が仕事で接する世間が拡がるにつれて、そういうことを望んでいる方々ばかりじゃないんだな(それは、翻訳者側にも校正者側にも、さらにはエージェント側にも)と、感じることが多くなりました。頼り、頼られというエピソードを思い出して、仕事にそれなりのやりがいを覚えることができた時期もあったな、と懐かしく思うこともあります。
 別にいつまでも昔の思い出にひたっていたいわけではないので、これからもうしばらく稼ぎ続けるためにどうしたらいいかは、MTPEを含めて前向きに考えたいと思っていますが、当面効率よく稼ぐことだけを追究していたのでは、元々好きではない仕事が、ますます辛い作業になるだろうなとは思っています。

Re: No title

コメントありがとうございます。
専門用語の選択について、翻訳者に過度の責任を負わせることは、本来は避けてほしいものです。
料金を上乗せしてもらえればかまいませんが。

特許翻訳では、クライアントから指定の用語集が提示されることもありますが、すべての専門用語を網羅していることはないので、どうしても調査が必要になり、翻訳メモを作成して提出する作業も発生します。

時々、今では使わない古い用語なのに「過去案件と用語が統一されていない」という指摘で修正することもあります。
特許審査での拒絶理由に、「この用語は使われていない」という事例もあるのですが、これは出願人の責任だと割り切っています。

そういいながらも、「当該技術分野の専門家が読んで理解できれば、古い用語を使ってもよい」という、判断に困る説明もされています。
そのためか化学分野の独日特許翻訳では、未だに「ベンゾール」が出てきます。
これは独和辞典の記載が影響していると思われます。

調査の作業に AI を使っても、その用語の採否について判断するところは、人間翻訳者が関わるべきだと思っています。

No title

 専門用語も変遷がありますね。
 学会が用語の変更を宣言するなど、明確なきっかけがある場合もあるし、特にそういう情報はないけれども、ウェブ検索してみると、10年前、15年前とは、使用される用語がずいぶん変わってきているようだと思うこともあります。
 同じ語句でも、技術分野によって訳が異なるのは当然だとしても、技術分野が極めて近く、内容も同じ物を指しているのに、異なる集団が異なる訳語を使っていることもあるようだと思います。具体例はすぐには思いつけませんが、例えば生化学会界隈と遺伝学会界隈とでは使われる用語が違うとか、近いなと思われる分野でも、生物学辞典と生化学辞典と分子生物学辞典と遺伝学事典を見比べると、辞書間で用語が異なるとか。
 あるいは、専門辞書や学術用語集に記載はあるけれど、資料が古いと、そんな言葉、今の現場ではまず使ってないんじゃないかなと思って悩む場合もあります。
 私は、訳語や表現についてウェブ検索していろいろな情報を集めたときは、主にPDICというシェアウェアを使って自分用のメモを残すようにしていますが、その時に調査の日付も一緒に書き留めておくようにしています。同じ単語、同じ表現を5年後、10年後に調べ直すと、ずいぶん違う結果になることがあるので、興味深く思うと共に、訳語・表現選択の基準をどこに合わせるべきかと考えながら悩むこともあります。
 例えば、学会の用語集や成書で根拠を示せることを重視するか、日本語として多少不自然でも、原義から離れずに可能な限り範囲が広くなるように訳すのがよいか、口頭発表や論文を含めて現場の研究・開発者が実用していると思われるものを(場合によっては多少カジュアルになるかもしれないので権利範囲を気にしながらも)一読した時の理解しやすさ、自然さを重視して選ぶかなど。
 と、まぁ、自分が選択した訳語、表現については、そういう風に他人様と堂々と議論できることもありますが、もちろんそういうケースばかりではなく、自分ではこれで全く問題ないと長年思い込んでいたけれど、ふとした拍子に不安になって調べ直してみると、実は世の中でそんな訳語を使っているのは自分だけではないとしても少数派で、自分には思いもよらなかった他の訳語の方が、今も昔も圧倒的に多く使われていることを知って嫌な汗を流すということも、残念ながら、多々あります(>_<。)
プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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