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「研究者を使い捨てる国」(世界 2023年9月号)

今日の買い物の一番の目的は、予約してあった岩波書店の雑誌「世界」9月号を受け取ることであった。
発売初日に売り切れることはないはずだが、8月号の件もあり、念のため予約した。

岩波書店のサイトでの紹介は次のリンク2つを参照。
www.iwanami.co.jp/book/b631760.html
websekai.iwanami.co.jp/

一番先に読んだ論文は、特集2 専門職の危機 「研究者を使い捨てる国」(元村有希子)である。

私が大学院生のときに「科学技術創造立国」ということで予算が増え、大学院の重点化なども行われた。
私も博士課程の3年間は毎月約16万円もらえたし、ポスドクとしてドイツ留学もできたので、その恩恵を享受した側だ。

「博士の人数を倍にしてアメリカ並みにすれば日本は良くなる」と言う偉い人もいたが、その後、大量の博士が就職難に遭うことになった。
何度も書いたが、そしてその偉い人は、「私も3年くらいは無職のようなものだった。頑張れ」と言った。

短期契約の非正規雇用の研究者を続けて頑張っても、大学や研究機関では終身雇用のポストが増えなかったので、何も改善されなかった。
私が民間企業に移り、今は翻訳をしているのは別の理由からだが、それでも 35歳前後で諦めて別の道を探したと思う。

世界9月号に掲載された報告では、ここ数年話題となっていた理化学研究所での研究者雇い止めの問題を最初に取り上げている。
研究者の場合、有期雇用の期間が通算10年になれば、無期雇用への転換を申し入れる権利を取得する。
それを使用者は拒めないため、10年になる前に契約を打ち切って、無期雇用転換の義務を免れようとする。

そのような理不尽な扱いを、100年以上の歴史を持つ理化学研究所をはじめとして、大学や研究機関が強行したことに、海外でも話題となった。
以下の Nature の記事は有料なので、支払ってダウンロードするか、図書館で読んでほしい。
www.nature.com/articles/d41586-022-01935-1

日本人研究者が自然科学分野のノーベル賞を受賞すると、1か月ほど科学関連の報道が増加する。
そのとき同時に、日本の科学研究の将来が危ういことも受賞者から毎回指摘されているが、何も変わらない。

研究の予算配分にまで「選択と集中」という小泉・竹中コンビの思想を取り入れたことも、衰退の一因だ。
競争することがすべて悪いことではないが、日本では学会のボスとその弟子たちのみが潤うシステムになっている。

私がある研究予算について批判する投書をしたところ、それを読んだ学会重鎮から私の指導教授に抗議の電話があったそうだ。
「あいつを黙らせろ。せっかく研究費を増やそうという雰囲気になってきたのに水を差すな。予算配分に不公平があるのはわかっている。ただしそれを国民に知られてはならない」と。

そしてその研究予算について、3年後の中間評価のときに、「本来のプロジェクトテーマと無関係の研究にまで予算が配分されている」という指摘を受けたプロジェクトもあった。
予算を握るボスが、かわいい子分たちにばらまいていたわけだ。
しかし、予算を返金したという話は聞かないし、プロジェクトが停止されたとも聞かない。

学会重鎮のコネがある一部の研究者が生き残るシステムでよければ、このまま続けていればよい。
そうして「研究者を使い捨てる国」という評判が国内だけでなく世界にも広まり、最先端の研究ができない国になればよい。

SARS-CoV-2 のワクチンの開発が遅れて、海外製薬メーカーに多額の費用を払って頼る国でもよいと思うのだろうか。
軍事研究を拒否している日本学術会議の責任だと誰かが言っていたが、それは全く間違いだ。
日本の研究力は低下しており、ノーベル賞などのベストケースだけを見ていては気付かない重大な問題があることを認めてほしいものだ。

こうなると、中途半端な科学技術振興策などやめて、優秀な研究者は全員海外に移住することを考えてもよさそうだ。
そして日本は、海外で成果が確実になったものだけをコピーして、国内市場向けに細々と生活していればよいのではないか。

岸田首相は昨年10月の所信表明演説で、「成長戦略の第一の柱は、科学技術立国の実現」であることを表明した。以前は「科学技術創造立国」と言っていたと思うが、どう呼ぼうと、今の日本ではとうてい実現できないのでどちらでもよい。これまでも人材育成のために奨学金などの拡大や、大学発ベンチャーの支援、競争的資金の増額など、様々な施策が講じられてきた。ただ、手を変え品を変えても根本的な問題を先送りしているだけなので...
「研究者大量雇い止め」の必然(東洋経済 2022年11月12日号)


テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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