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「X腺」という誤記が登録されている翻訳メモリは嫌だ

翻訳の仕事では、CATツールの使用を指定されることがある。
特許や取扱説明書などで類似の表現が多い場合には、過去の翻訳が参考になるので、CATツールの翻訳メモリが役立つ。
専門用語に加えて、クライアントが好む表現もあるので、用語集に加えて翻訳メモリがあると便利なこともある。

しかし、月に最低でも1回は、誤訳が登録されている翻訳メモリに出会う。
勘違いによる誤訳もあれば、単なるタイプミスや漢字変換ミスもある。

翻訳メモリに厳密に従えという指示であっても、工場とすべきなのにと登録されていたので修正したことがある。
和訳を修正できても、翻訳メモリ自体を編集する権限がなかったので、これは CATツールのコメント機能を使用して注記を入れた。

誤訳を見つけたならば修正して、コメントを付けて納品すればそれで終了だと、単純に思うかもしれない。
ただ、以前もあったのだが、なぜ誤訳だと判断したのか追加の説明を求められて、余分な時間がかかったことがある。
最終的に私の指摘が正しいと認められて、翻訳メモリも修正されたが、この誤訳修正と説明のために追加料金をもらったことはない。

最近もまた、単なる漢字変換ミスかもしれないが、医療機器の案件で誤訳の登録を見つけた。
そのセグメント全体を示すことはできないので、間違って登録された単語のみ示そう。

レントゲンのX線Xとなっていた。

医療関係だと、リンパ腺などで「腺」を使うことが多いので、入力した「せん」または「sen」を変換すると、使用頻度が多い「腺」が第一候補になり、そのまま選択してしまうのかもしれない。

翻訳者が自分で推敲するとき、にくづきのを見ても、「X」の後にあると、いとへんのに脳内で自動的に変換してしまうだろう。
そして漢字変換ミスに気付かずに納品してしまい、その後も修正されることなく、翻訳メモリに残り続けてしまう。

こんな翻訳メモリを提供されるなんて嫌だ。

AIを翻訳に活用するならば、このような人間の思い込みによる見落としをチェックする作業をさせた方が受け入れてもらえるのではないか。

ちなみに、にくづきのX腺で検索してみると、医療関係のサイトでも、この漢字変換ミスが放置されていると判明した。
例えば、日本胃癌学会の胃癌治療ガイドラインにもあった。
www.jgca.jp/guideline/fourth/category2-h.html

図9の下は、  「*必要時に施行:胸部X,……」。
図10の下は、「*必要時に施行:胸部X,……」。

自分の翻訳でも気をつけよう。


翻訳で使う CATツールには、QAツールの機能が付属していることもある。Trados では、クライアントから QAツールの設定ファイルが提供されることもある。また、XBench などの QA用のソフトを使うように指定されることもある。これに加えて、日本語がターゲットの場合、タイプミスや漢字変換ミスを検知する QAツールの設定が必要ではないか。このために AI支援のツールが必要ではないかと感じている。既に存在しているのかもしれない...
翻訳CATツールのQAツールでは変換ミスを検知するAI支援が必要ではないか


テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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No title

解説ありがとうございました。
ちょっと違うけれど日本の旧正月みたいですね。
ヘミングウェイのa movable feastについて、
調べ直してみました。
ほとんどコピペで恐縮ですが、キリスト教とは距離があるみたいでした。それなら移動祝祭日と言う訳も許されるかな。
*******************************************
彼は自宅で猟銃自殺した。六十二歳だった。
本が出版されたのは彼の死の三年後。
タイトルを決めたのはヘミングウェイの晩年、
公私ともに親しくしていたライターの
A・E・ホッチナーであった。
一般的な比喩として、
「どこにでもついてくる饗宴」という意味がある。
ヘミングウェイは恐らく、
若いころにパリで暮らした人間にとってのパリを、
「どこにでもついてくる饗宴」ととらえたのだろう。
未亡人のマリーが遺作のタイトルを考えていることを知り、
「移動祝祭日」にしてはどうかと進言した。

No title

失礼しました。日数を間違えていました。ペンテコステはイースターの50日後です。

No title

移動祝祭日は原文が英語なら a movable feast、ドイツ語なら ein bewegliches Fest (または複数で bewegliche Feste) になっているでしょうか。

イースター以外にも移動祝祭日がありますので、限定しない表現にしているのでしょう。

イースターが毎年日付が変わる移動祝日・移動祝祭日であることは有名で、そのイースターを起点にして決まる他の祝日、例えば、40日後のペンテコステなども移動祝日・移動祝祭日になります。

ちなみに、2024年のイースターは 3月31日で、2025年のイースターは 4月20日です。つまり、日本の4月始まりの2024年度に赴任する牧師やキリスト教系学校の先生は、その年度にイースターを経験しません。したがって、2024年度予算にイースターは入れません。その代わりに 2023年度は4月9日もイースターだったので、関連予算は2倍になります。会計面では移動することのデメリットもありますね。

No title

BeamとGlandの機械的な取り違えによる誤訳ですね。
クリスチャンであられるブログ主さまにお尋ねしますが、
『移動祝祭日』という訳語は適切ですか。
復活祭と訳すべきではありませんか。
今でもこのようなタイトルを見かけるのです。
プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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