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専門用語は念のために調べよう

以前にも書いたように、私は有機化学の研究で博士号を取得しているものの、化学分野のすべてを知っているわけではない。
研究室では毎日英語とドイツ語の文献を読み、ポスドクとしてドイツに2年間留学したが、すべての学術用語を覚えているわけではないので、念のため辞書や専門書で確認することも多い。

念のために調べようというひと手間が、翻訳の仕事では大切だと思う。
さらに、「この和訳では変だな」、「こんな用語は見たことがないな」という疑問を持つことも大切ではないだろうか。

機械翻訳のポストエディットでも、人間翻訳のチェックでも、その分野ではありえない誤訳が含まれていることがある。
機械翻訳では、そもそも文脈の判断をしていないから、そして人間翻訳では、能力不足だけではなく勘違いもあるから。

私が働く特許翻訳では、人材不足ということもあり、機械翻訳よりも悪い翻訳を納品する翻訳者がいることは事実である。

何度もフィードバックしているのに改善しない翻訳者はいて、最近納品したドイツ語和訳でも、測定値の回帰分析の表現で誤訳したままだった。

誤訳ばかりのその文章を示せないので、代表として1つだけ示そう。
ドイツ語の quadratischer Fehler が、方形エラーと和訳されていた。

私もこの用語は覚えていなかったが、方形エラーという用語を回帰分析の説明で見たことはなかった。
念のため調べてみると、二乗誤差が正しい和訳だ。

形容詞 quadratisch の意味は主に2つある。
正方形の と、2乗の; 2次の である。

辞書で最初に書いてある正方形のを優先したのかどうかは不明だが、方形エラーと和訳しても、推敲段階で、「なんだか変だな、回帰分析では聞いたことがない用語だな」と疑問を持ってほしかった。

そうすれば、辞書で2番目に書いてある2乗のに気付いて、そして統計用語を調べてみて、二乗誤差にたどり着いたはずだ。

専門用語についてフィードバックをしても、同様のミスはなくならないと思われるので、無駄ではないだろうか。
というのも、「なんだか変だな」という気付きがないのだから、何度フィードバックしても変わらないだろう。

今回の回帰分析の文章を Google と DeepL に和訳させたところ、正しい和訳が出力された。
機械翻訳のレベルが向上してきたので、フィードバックしても改善しない人間翻訳者に依頼することは無駄ではないかと感じている。

そのため、機械翻訳を使って業務を効率化できる翻訳者と、機械翻訳の出力を手本にして勉強する人に、よりはっきり分かれるようになるのではないか。


ある翻訳のセミナーで受講生の1人が、「辞書の最初に載っている意味を選んでいますが、だめですか?」と質問したことがある。このような人が複数いるためなのか、翻訳チェックの仕事をしていると、違和感のある和訳に出会うことがある。独日翻訳チェックで最近出会ったのは、「アラームの咆哮」。セキュリティ装置や目覚まし時計などのアラームの音源が、猛獣やゴジラということなのだろうか。答えを先に言うと、これは用例調査の...
「アラームの咆哮」とは何だろう


テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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No title

コメントありがとうございます。
私は化学専門ですが、ドイツ語和訳の仕事だと自動車が多いので、エンジンやトランスミッションなどの機械分野の用語を念入りに調べます。Boschの本を独・英・日でそろえていますが、それでもわからないこともあります。自前の用語集をエクセルで簡易的に作っていて、根拠も含めてメモしており、毎回エントリが増えますね。

私も苦労しているので、やり取りをしていてきちんと調査の努力をしている方はわかります。しかし、「この訳語にそれほどの思い入れはないので、直してもらってもかまわない」だとか、何度もフィードバックしても変わらない方は困ります。

また、「元素名は日本語名称を確認してください。例えば、燐ではなくリン。」と指摘すると、「リン」だけは対応しますが、「錫」、「ユーロピウム」など、他の元素は確認しない方もいます。

今日はこれから紀伊國屋書店に行って、注文してあった「ChatGPT翻訳術 新AI時代の超英語スキルブック」を受け取ります。特許の対訳で学習が進めば、数年後には同様に機械翻訳の出力で勉強する人も出てきそうです。

私は80歳まで続けるつもりでしたが、60歳で再度転職を考えることになるかもしれません。

No title

私もとにかく調べるんですが、分野が少し違うだけで用語法が大きく変わって難しいなあと思うことが多いです。その点は、もしかすると今時の機械翻訳の方が私よりは的外れでない(その文脈にあった)訳語を提示する場合さえありそうです。「こんな用語は見たことがないな」と調べているうちに「この分野ではそんな風に表現するんだ」と驚いたり、「最近普及した言葉だと思うけど、まさかそんなに工夫のない訳語が定着してるとは思わなかった」などと思うこともあります。さらには「なぜそんな工夫のない訳語」と思った私の方が間違っていて、その分野では昔から、私の知らない表現があり、それを使って新しい用語の訳を作り出したらしいとかいうこともあるので、仕事をすればするほど自信がなくなっていきます。とにかく調べるのですが、私の個人的な能力の限界か、最近は最善の答えには到達できていないかもとか、そもそもこの訳語がこの分野には馴染まない訳語で思いも寄らなかった適切な訳語候補が他にあるのにそれに気づけていないかもとか、不安に思うことばかりです。私では荷が重すぎるので、もうそろそろ引退したいですが、経済状況がそれを許してくれません。
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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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