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実験の経験がないと実施例の翻訳は困難になるだろうか

ヨーロッパの翻訳会社と契約するとき、専門分野での学位の証明を求められることがある。
私のように化学で博士号を取得したならば、化学分野の特許や論文の翻訳について依頼があるのが普通だ。
ドイツ語を理解するとはいっても、化学者にカントの著作の案件は頼まないものだ(問い合わせくらいはあるかもしれないが)。

日本ではどちらかというと学位よりも実務経験を尊重するようで、「文系出身だが勉強して医薬翻訳ができるようになった」という話を聞くことも多い。

最近は、細胞培養や有機合成の実験の手引きのような書籍も増えたし、実験操作を動画で説明するコンテンツもあるので、自分で触ったことがなくても学習する手段はある。

それでも、大学レベルの実験の経験がないと、特許実施例や論文の実験の部を翻訳することは困難ではないかと思う。
英語では簡単に書いてあっても、その実験操作が実際に何を行っているのか、どのような意味があるのか、実体験がないと理解できないこともあるだろう。

次に示す例は、実験の経験がなくても誤訳するはずがないと言われそうだが、メモとして残しておきたい。

ラジカル反応を用いた有機合成実験で、反応を停止する工程の表現を一部改変して示そう。

The reaction was quenched in air. 反応を空気中でクエンチした。

反応の停止には動詞 quench を使うことが多い。
これをある翻訳者は、入力済みの機械翻訳結果に引きずられたのか、反応を空気中で急冷した。とした。
MTPEでは、機械翻訳結果に疑問を持たないような翻訳者が作業すると、誤訳がそのまま残ってしまう。

空気中の酸素によってラジカル反応が阻害されて、その反応が停止することを知識として持っていれば、実際に有機合成を経験していなくても、誤訳しないかもしれない。

また、その前にあるセグメントでは、反応開始の準備として、脱気してから窒素に置換しているので、無酸素条件で行う反応だと理解していれば、「窒素雰囲気から空気中に変わるということは、酸素が関係している」と推測可能だ。

ただし、このラジカル反応では、開始剤の分解のためにも加熱するので、反応終了後に室温まで冷やすのだから「急冷した」で正しいと思ったのかもしれない。
最初はそう思ったとしても、それでも、有機合成の知識や経験があれば誤訳に気付く確率は高いはずだ。

ちなみに、Google 翻訳でも DeepL でも、和訳の第1候補は「クエンチした」である。
DeepLでは、その他の候補の3番目に「急冷した」が出てくる。

機械翻訳の変な出力を冷やかすような投稿もまだ続いているが、間違いを訂正できない翻訳者がいるという、現実の問題に取り組むことにも目を向けてほしいものだ。


今日は大学時代からの知人が、私に会うために教会の礼拝に初めて出席した。今日会うことにした目的はいろいろとあるのだが、個人的なものとして、翻訳業界への転職についての相談があった。その知人のお母さんには、私が役員として担当する伝道委員会から毎月手紙を送っており、そのやりとりの中で、私が翻訳をしていることを伝えていたので、翻訳業界について質問したかったとのことだ。朝礼拝の後、教会では会議室も含めて使用中...
知人から翻訳業界への転職について相談されたので


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ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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