「自らの見解から距離を置く」は英文記事の和訳で解釈が足りなかった可能性があるかも
ホロコースト否定論者のウィリアムソン司教のニュースは連日報道され、いつ終わるのか見当もつかない。
最初は外国語報道のみだったが、日本語報道も増えてきたためか、ブログも含めて話題となっているようだ。
ここではローマ法王の話ではなく、誤訳 (?) 英文記事を参考にしたと思われる時事通信について書きたい。
2月5日配信の時事通信の記事に、次のような記述があった。
http://www.jiji.com/jc/c?g=int&rel=j7&k=2009020500739
【バチカンは4日になって、「教会での活動を認めるには、ウィリアムソン司教はホロコーストに関する自らの見解から距離を置くことを明確にしなければならない」と発言の撤回を求めた。】
赤字で示した 「自らの見解から距離を置く」 という部分に、私は違和感を持った。
「バチカンがウィリアムソン司教から距離を置く」 と、「 [人] を敬遠する」 という意味ならばわかるが、「自らの見解から距離を置く」 という使い方が一般的なのかどうか、疑問に思ってしまった。
ロイター通信で該当しそうな記事を探すと、次のような記述が見つかった。
http://www.reuters.com/article/worldNews/idUSTRE5133LM20090204
【"Bishop Williamson, in order to be admitted to the episcopal functions of the Church, must in an absolutely unequivocal and public way distance himself from his positions regarding the Shoah," a Vatican statement said, using the Hebrew word for the Holocaust.】
すると時事通信の記者は、この英語記事を読んでそのまま和訳し、配信記事を書いたのかもしれない。
この件については、時事通信社に質問メールを送っておいた。
(追記(2月7日):
英和辞典の用例では、 【distance oneself from one's former habits 過去[かつて]の習慣から抜け出す[に流されない・にと らわれない]】 とあった。
単に 「距離を置く」 という和訳では、発言の撤回を求めるバチカンの意志表示は伝わらない。)
バチカンの発表は何語だったのかわからないが、ドイツ語記事では次のようになっている。
http://www.sueddeutsche.de/politik/683/457344/text/
【Um als katholischer Bischof vollständig rehabilitiert zu werden, müsse "Williamson in unmissverständlicher Weise öffentlich Abstand nehmen von seinen Erklärungen zur Shoah",】
ここで、"von et.3 Abstand nehmen" は、「…を断念<放棄・中止>する」 という意味。
さ らに独英辞典では、"to refrain from sth." とあり、"to distance from sth." ではない。
バチカンの声明は、ドイツのメルケル首相の批判に応えたのだから、ドイツ語訳から考えるべきかも。
するとロイター通信の記者が、英語に翻訳するとき に勘違いしたのかもしれない。
そして時事通信の記者が、その英語記事を参考にしたので、「距離を置く」 となったのだろう。
まあ、「発言の撤回を求めた」 とも書いてあるので、ここまでこだわらなくてもいいかもしれない。
ただ、「翻訳記事が原本を正確に反映しているのか」 という課題を、考える材料としておきたい。
(最終チェック・修正日 2009年02月07日)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int&rel=j7&k=2009020500739
【バチカンは4日になって、「教会での活動を認めるには、ウィリアムソン司教はホロコーストに関する自らの見解から距離を置くことを明確にしなければならない」と発言の撤回を求めた。】
赤字で示した 「自らの見解から距離を置く」 という部分に、私は違和感を持った。
「バチカンがウィリアムソン司教から距離を置く」 と、「 [人] を敬遠する」 という意味ならばわかるが、「自らの見解から距離を置く」 という使い方が一般的なのかどうか、疑問に思ってしまった。
ロイター通信で該当しそうな記事を探すと、次のような記述が見つかった。
http://www.reuters.com/article/worldNews/idUSTRE5133LM20090204
【"Bishop Williamson, in order to be admitted to the episcopal functions of the Church, must in an absolutely unequivocal and public way distance himself from his positions regarding the Shoah," a Vatican statement said, using the Hebrew word for the Holocaust.】
すると時事通信の記者は、この英語記事を読んでそのまま和訳し、配信記事を書いたのかもしれない。
この件については、時事通信社に質問メールを送っておいた。
(追記(2月7日):
英和辞典の用例では、 【distance oneself from one's former habits 過去[かつて]の習慣から抜け出す[に流されない・にと らわれない]】 とあった。
単に 「距離を置く」 という和訳では、発言の撤回を求めるバチカンの意志表示は伝わらない。)
バチカンの発表は何語だったのかわからないが、ドイツ語記事では次のようになっている。
http://www.sueddeutsche.de/politik/683/457344/text/
【Um als katholischer Bischof vollständig rehabilitiert zu werden, müsse "Williamson in unmissverständlicher Weise öffentlich Abstand nehmen von seinen Erklärungen zur Shoah",】
ここで、"von et.3 Abstand nehmen" は、「…を断念<放棄・中止>する」 という意味。
さ らに独英辞典では、"to refrain from sth." とあり、"to distance from sth." ではない。
バチカンの声明は、ドイツのメルケル首相の批判に応えたのだから、ドイツ語訳から考えるべきかも。
するとロイター通信の記者が、英語に翻訳するとき に勘違いしたのかもしれない。
そして時事通信の記者が、その英語記事を参考にしたので、「距離を置く」 となったのだろう。
まあ、「発言の撤回を求めた」 とも書いてあるので、ここまでこだわらなくてもいいかもしれない。
ただ、「翻訳記事が原本を正確に反映しているのか」 という課題を、考える材料としておきたい。
(最終チェック・修正日 2009年02月07日)