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スタンダール「赤と黒」の誤訳論争は続いていた

スタンダールの小説 「赤と黒」 の斬新な新訳を、野崎歓・東大准教授が発表した後、下川茂・立命館大教授から 「誤訳博覧会」 などと、出版社と訳者は痛烈な批判を浴びている。

下川教授の批判は、日本スタンダール研究会の会報 No.18 に掲載され、ダウンロードできる。
http://www.geocities.jp/info_sjes/newpage3.html

そして今日気づいたのだが、下川教授が、その後の経緯をまとめた文書を提出していた。
上記の会報のサイトに号外としてリンクが示されている。
(号外 「『赤と黒』新訳について」 追補2 (下川茂))
http://www.geocities.jp/info_sjes/kaihou/appendice18surRNdeSIMOKAWA.pdf

下川教授の反論掲載が、光文社によりもみ消されたなどと、怒りが伝わってくる文書だ。

【2008年6月8 日付け産経新聞東京版にこの書評が取り上げられた。直ちに私はその記事の中の光文社のコメントと、私宛に届いた野崎氏の手紙に対する反論を書いた。野崎氏の手紙は絶版も全面改訳も拒否するものである。
私の反論は産経新聞に掲載される予定だったが、光文社から産経新聞に対する働きかけの結果、没になった。ここに全文引用して、現時点での私の立場を明らかにしておきたい。】

私は中立だが、下川教授の名誉のために全文をコピーして紹介しよう。

【本紙桑原聡記者の6月8日付けの記事によれば、野崎歓氏訳『赤と黒』を古典新訳文庫の一冊として刊行した光文社の文芸編集部長駒井稔氏は、誤訳を指摘した私の書評について、「読者からの反応はほとんどすべて好意的ですし、読みやすく瑞々しい新訳でスタンダールの魅力がわかったという喜びの声だけが届いております」、「些末な誤訳論争に与する気はまったくありません」とコメントしている。

「誤訳論争」が「些末」だとする駒井氏の発言は、編集者としての責任を放棄するものであり、
読みやすさだけを訳者に求める出版社に古典の新訳を出す資格があるとは思えない

書評で指摘したが、翻訳がまず満たすべき目標が原文の意味を正しく伝えることであることを訳者野崎氏は認めており、第3刷で何箇所か誤訳を訂正している。

しかしこの訂正は氏の自発的な見直しによるものではなく、氏の手に渡った誤訳リストで指摘された箇所だけ、読者に内緒で訂正したものである。

絶版-全面改訳を勧める私の手紙に対して、野崎氏は、書評で指摘された「解釈上のミス」は「よく検討」した上で「機会に恵まれ」たら修正する、又、「総計数百箇所あるとの」ミスの箇所を「ご教示いただきたい」と回答してきた。

しかし、「総計数百箇所」のミスを氏がもし認めて訂正すれば、その結果できた翻訳はもはや野崎氏の単独訳とはいえ なくなる。そもそも氏の誤訳はほとんどが既訳を丁寧に参照しさえすれば避けられたものであり、中には極めて初歩的な誤りもある。
まもなく五十歳になるベテラン仏文学者に「ご教示」するようなものではない

「解釈上のミス」と氏はぼかし、「検討」の余地があるように書いているが、私が指摘した氏の誤訳は全て
議論の余地の無 い単純な誤訳であり、だからこそその一部を知った野崎氏は第3刷で訂正したのだろう。自ら訳全体を見直すことをせず、人から指摘された箇所だけ「機会に恵まれ」たら訂正していくという野崎氏の姿勢は、翻訳は読みやすければよく、誤訳など「些末な」問題だとする駒井氏と、読者に対する無責任という点で大きな違いはない。

第3刷で訂正された誤訳はごく一部で ある。大きな欠落箇所も残っている。いつまで野崎氏と光文社はこの前代未聞の欠陥翻訳を売り続けるのだろうか。私の書評が掲載された会報は日本スタンダール研究会のホームページで公開されている。読者諸賢は誤訳・不自然な日本語の数々を是非そこで確認して頂きたい。】

私も当事者であれば、このように苦言を呈するであろう。
過去にも海外配信記事の和訳が誤訳であると、このブログでも指摘してきたから。

フランス文学の研究者なので、自身の研究成果を 「新訳」 として出版したのだろうか。
「訳者あとがき」 に書いてあるのかもしれないので、立ち読みでもして確認しようと思う。

原文に忠実に翻訳するのか、それとも例えば 「こども文学全集」 に載せるために改訳するのか、それはドイツ語でも 「グリム童話集」 の例で、何度も話題となってきたことである。

それでも、翻訳を通してスタンダールに触れようとする読者には、あまり改変された新訳は誤解の元だ。

「古典新訳」 とはせずに、「古典の現代風解釈の試み」 とすればよかったのかも。
昔の映画をリメイクするように。

私は文学作品を翻訳することはないだろうが、誤訳だとして糾弾されないように気をつけよう。

テーマ : 翻訳勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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