Bowhead Whaleの和名について、その後
アラスカのイヌイット(イヌピアック)が捕獲したクジラの体内に、19世紀後半の銛の一部が残っていた。
このニュースはロイターが配信したわけだが、日本語訳の記事でクジラの和名に疑問点が生じた。
英語の元記事では "Bowhead Whale" で、ちなみにドイツ語記事では "Grönlandwal"。
「グリーンランドクジラ」 という慣用名もあるが、和名は 「ホッキョククジラ」 である。
ロイターの元記事は次のとおり。
http://www.reuters.com/article/scienceNews/idUSN1228690820070613
ドイツ語の記事は、例えば Süddeutsche Zeitung では次のとおり。
http://www.sueddeutsche.de/,ra10m3/wissen/artikel/555/118418/
クジラに関する様々な資料を見ても、"Bowhead Whale" は 「ホッキョククジラ」 であった。
ロイター配信記事を掲載した朝日新聞では、これは英語記事から翻訳したからなのか、間違えていない。
【北米のアラスカで先住民が今年5月に捕まえたホッキョククジラから、19世紀後半に作られたと見られる「もり」の一部が見つかった、とロイター通信が13日伝えた。】
ロイタージャパンには、和名の間違いについて問い合わせ中である。
(追記(6月15日):ロイターの記事が訂正された。
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-26417620070615
私の他にも問い合わせをした人がいるのだろうか。
ただし、最後の行は「セミクジラ」のまま。
【アラスカ沖で先月に捕獲された巨大なホッキョククジラ(訂正)の体内から、1800年代に商業捕鯨で使われていた銛(もり)の破片が見つ かった。… 現地に住むイヌイットが先月に捕獲したセミクジラから見つかった。
*12日の記事第1段落で「セミクジラ」を「ホッキョククジラ」に訂正します。
最終更新:6月15日 11時49分】
追記(7月1日):記事は再度訂正された。最終行も「ホッキョククジラ」となった。
【…現地に住 むイヌイットが先月に捕獲したホッキョククジラ(訂正)から見つかった。…
*12日の記事第1 段落と最終段落で「セミクジラ」を「ホッキョククジラ」に訂正します。
最終更新:6月20日 17時27分】)
もしかすると、参考にした英和辞典が間違っていたのかもしれない。
例えば、アルクHPの 「英辞郎 on the Web」 で調べると、次のように出ていた。
http://www.alc.co.jp/index.html
【bowhead = bowhead whale セミクジラ、セミ鯨
口が体の1/3もあり頭がゴツゴツしているヒゲ鯨。15m、100トン位。絶滅 の危機になったので捕獲禁止、2001年で2000頭位しかいない。泳ぐのが遅くしかも岸の近くまで来るので昔から捕鯨の好獲物だった(「right whale」は獲るのが「簡単」な鯨の意味)。江戸時代の捕鯨の絵画にも描かれている。
right whale=bowhead whale=Greenland whale=Balaena Mysticetus=Eubalaena Australis。】
英語での三種類の慣用名が同一とされ、しかも異なる学名が同一とされているから、これは明らかに変だ。
では "right whale" はどうなのか検索してみた。
【right whale セミクジラ、セミ鯨
口 が体の1/3もあり頭がゴツゴツしているヒゲ鯨。15m、100トン位。絶滅の危機になったので捕獲禁止、2001年で2000頭位しかいない。 泳ぐのが遅くしかも岸の近くまで来るので昔から捕鯨の好獲物だった(「right whale」は獲るのが「簡単」な鯨の意味)。江戸時代の捕鯨の絵画にも描かれている。
right whale=bowhead whale=Greenland whale=Balaena Mysticetus=Eubalaena Australis。】
なんと、語義説明が全く同一だ。
そうなると、英和辞典を作るときに参考にした、元の文献が間違っている可能性が高い。
もしかすると古い文献では、セミクジラ類の分類が行われず、一種のみだったのかもしれない。
翻訳するときに辞書を調べるのは基本だが、その辞書が絶対に正しいという先入観を持ってはいけない。
辞書を編纂する際には、複数の文献を比較検討するが、それでも間違えることはある。
今回のような生物名については、できれば学会関係の書籍で、和名を確認してほしいものだ。
以前の翻訳作業でも、昆虫の和名が二種類あって困ったことがあったし。
ところで、このクジラの和名が異なることが、IWC関係の報道で誤解を生んでいるようだ。
先住民生存捕鯨で許可されているのはホッキョククジラ であり、セミクジラではない。
しかしロイター記事のように、「セミクジラの捕獲が許可されている」 と書いている人もいる。
英語を読める人が日本語訳を作っているのだろうが、参考にした辞書が間違いではどうしようもない。
それでも少し調査すれば正解は見つかるわけで、こんなうっかりミスの翻訳はしたくないものだ。
また、この 「誤訳」 については、ある意図を感じている人もいるようだ。
「絶滅危惧種であるセミクジラの捕獲をアラスカ先住民に許可していると印象付け、ならば数が多いミンククジラの沿岸捕鯨を日本に認めろという世論を喚起したい」、というものだ。
まあ、ロイターがそんなことをわざわざやると思えないので、単なるチェック漏れの誤訳だろう。
ロイターと契約する翻訳者が、この程度のレベルだと、他の記事も信用できなくなる。
誤訳に振り回されないためにも、外国語の知識が必要になるわけだ。
追記:
AFPの日本語記事も 「セミクジラ」 としている。
http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2239195/1690978
(6月16日朝には訂正されていた。
【(一部訂正)アラスカ先住民のハンターが捕獲したホッキョククジラの体内から19世紀のものと思われる銛 (やじり)の破片が発見され話題を呼んでいる。…】)
CNNの日本語記事はAPの配信記事を元にしているが、「ホッキョククジラ」 としている。
http://www.cnn.co.jp/science/CNN200706140010.html
産経新聞は一度 「セミクジラ」 だったが、その後 「ホッキョククジラ」 と訂正したようだ。
間違ったままのニュースを引用したブログも 多数あり、セミクジラの捕獲が許可されていると、誤解が流布する危険性がある。
他にも、クジラの年齢について130歳だったり120歳だったり、115-130歳の間とするものがあったりと、複数の情報源を確認することが大切だと学んだ。
(最終チェッ ク・修正日 2007年07月01日)
【北米のアラスカで先住民が今年5月に捕まえたホッキョククジラから、19世紀後半に作られたと見られる「もり」の一部が見つかった、とロイター通信が13日伝えた。】
ロイタージャパンには、和名の間違いについて問い合わせ中である。
(追記(6月15日):ロイターの記事が訂正された。
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-26417620070615
私の他にも問い合わせをした人がいるのだろうか。
ただし、最後の行は「セミクジラ」のまま。
【アラスカ沖で先月に捕獲された巨大なホッキョククジラ(訂正)の体内から、1800年代に商業捕鯨で使われていた銛(もり)の破片が見つ かった。… 現地に住むイヌイットが先月に捕獲したセミクジラから見つかった。
*12日の記事第1段落で「セミクジラ」を「ホッキョククジラ」に訂正します。
最終更新:6月15日 11時49分】
追記(7月1日):記事は再度訂正された。最終行も「ホッキョククジラ」となった。
【…現地に住 むイヌイットが先月に捕獲したホッキョククジラ(訂正)から見つかった。…
*12日の記事第1 段落と最終段落で「セミクジラ」を「ホッキョククジラ」に訂正します。
最終更新:6月20日 17時27分】)
もしかすると、参考にした英和辞典が間違っていたのかもしれない。
例えば、アルクHPの 「英辞郎 on the Web」 で調べると、次のように出ていた。
http://www.alc.co.jp/index.html
【bowhead = bowhead whale セミクジラ、セミ鯨
口が体の1/3もあり頭がゴツゴツしているヒゲ鯨。15m、100トン位。絶滅 の危機になったので捕獲禁止、2001年で2000頭位しかいない。泳ぐのが遅くしかも岸の近くまで来るので昔から捕鯨の好獲物だった(「right whale」は獲るのが「簡単」な鯨の意味)。江戸時代の捕鯨の絵画にも描かれている。
right whale=bowhead whale=Greenland whale=Balaena Mysticetus=Eubalaena Australis。】
英語での三種類の慣用名が同一とされ、しかも異なる学名が同一とされているから、これは明らかに変だ。
では "right whale" はどうなのか検索してみた。
【right whale セミクジラ、セミ鯨
口 が体の1/3もあり頭がゴツゴツしているヒゲ鯨。15m、100トン位。絶滅の危機になったので捕獲禁止、2001年で2000頭位しかいない。 泳ぐのが遅くしかも岸の近くまで来るので昔から捕鯨の好獲物だった(「right whale」は獲るのが「簡単」な鯨の意味)。江戸時代の捕鯨の絵画にも描かれている。
right whale=bowhead whale=Greenland whale=Balaena Mysticetus=Eubalaena Australis。】
なんと、語義説明が全く同一だ。
そうなると、英和辞典を作るときに参考にした、元の文献が間違っている可能性が高い。
もしかすると古い文献では、セミクジラ類の分類が行われず、一種のみだったのかもしれない。
翻訳するときに辞書を調べるのは基本だが、その辞書が絶対に正しいという先入観を持ってはいけない。
辞書を編纂する際には、複数の文献を比較検討するが、それでも間違えることはある。
今回のような生物名については、できれば学会関係の書籍で、和名を確認してほしいものだ。
以前の翻訳作業でも、昆虫の和名が二種類あって困ったことがあったし。
ところで、このクジラの和名が異なることが、IWC関係の報道で誤解を生んでいるようだ。
先住民生存捕鯨で許可されているのはホッキョククジラ であり、セミクジラではない。
しかしロイター記事のように、「セミクジラの捕獲が許可されている」 と書いている人もいる。
英語を読める人が日本語訳を作っているのだろうが、参考にした辞書が間違いではどうしようもない。
それでも少し調査すれば正解は見つかるわけで、こんなうっかりミスの翻訳はしたくないものだ。
また、この 「誤訳」 については、ある意図を感じている人もいるようだ。
「絶滅危惧種であるセミクジラの捕獲をアラスカ先住民に許可していると印象付け、ならば数が多いミンククジラの沿岸捕鯨を日本に認めろという世論を喚起したい」、というものだ。
まあ、ロイターがそんなことをわざわざやると思えないので、単なるチェック漏れの誤訳だろう。
ロイターと契約する翻訳者が、この程度のレベルだと、他の記事も信用できなくなる。
誤訳に振り回されないためにも、外国語の知識が必要になるわけだ。
追記:
AFPの日本語記事も 「セミクジラ」 としている。
http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2239195/1690978
(6月16日朝には訂正されていた。
【(一部訂正)アラスカ先住民のハンターが捕獲したホッキョククジラの体内から19世紀のものと思われる銛 (やじり)の破片が発見され話題を呼んでいる。…】)
CNNの日本語記事はAPの配信記事を元にしているが、「ホッキョククジラ」 としている。
http://www.cnn.co.jp/science/CNN200706140010.html
産経新聞は一度 「セミクジラ」 だったが、その後 「ホッキョククジラ」 と訂正したようだ。
間違ったままのニュースを引用したブログも 多数あり、セミクジラの捕獲が許可されていると、誤解が流布する危険性がある。
他にも、クジラの年齢について130歳だったり120歳だったり、115-130歳の間とするものがあったりと、複数の情報源を確認することが大切だと学んだ。
(最終チェッ ク・修正日 2007年07月01日)